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第2話

麻琴は昔から突拍子もない奴だった。 ふたりの生まれは京都市で、府内随一の進学校である中高一貫の男子校に通っていた。麻琴と邦孝は、定期試験で毎度のように1、2の成績を争い、ふたり揃って現役で東京大学に合格後、都内でルームシェアを開始し、それが現在にも至っている。 麻琴と普通の仲の良い友人から恋人関係になったのも、彼からの突拍子もない告白がきっかけだった。 あれは、高校に進学し、ふたり揃って文系の特進クラスに籍を置いて、しばらく経った頃だ。 「お前が好きや」 京都は白川にある麻琴の自宅で、中間試験の勉強に励んでいる最中だった。整理整頓が行き届き、やましい本の類いが一切見当たらない年頃の少年らしからぬ麻琴のひとり部屋で、何の脈絡もなくそんなことを言われ、邦孝はシャープペンシルを鼻の頭にあてながら石のように固まってしまった。 今でもはっきりと覚えている。家には彼と自分のふたりしかおらず、他愛のない話を時折しながら、古文の問題集を解いていた。麻琴からの唐突な告白を受け、数秒の間、時間と思考という概念を喪失していた邦孝は、錆びついた鉄扉を抉じ開けるが如く、口を開いた。 「……頭を打ちし(頭打ったん)?」 「打ちたらず(打ってへん)」 麻琴は当時から淡々とした奴だった。ゆっくりとかぶりを振り、こちらをじっと見た。黒々とした瞳には、真っ直ぐな光がさしていた。 「俺は至ってまともや」 「……待て。待て、待て、待て」 邦孝はシャーペンを置き、顔の前で右手を広げた。 「これってあれやんな……世間一般で言う告白ってやつ……?」 「そうや。恋する相手に対して自分の気持ちを伝えるそれや」 「待ってくれ」 大パニックだった。脳内はまるで怪獣映画の破壊された街のようになっている。……麻琴は自分を好きだと言う。それも、恋愛的な意味で。中学からの親友である彼が、自分に恋している? ……意味不明、理解不能だった。 「待って……そんなん急に言われて、どないしたらええねん……」 「やろうな」 麻琴は顎を引き、手元のテキストを閉じた。「そう簡単に受け止められるもんやないよな。やから」 「や、やから……?」 「距離を置いてほしい」 脳が再び思考停止した。目を丸くし、麻琴を見つめていると、彼はまるでこちらの胸のうちに言葉を刻み込むように、はっきりとした声で言う。

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