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第13話

麻琴がこんな時間になるまで帰宅せず、仕事に打ち込む理由は何だろう。心配と不安が入りまじった気持ちになりながら、邦孝は思った。私生活がほとんどない、仕事ばかりの日々を送り、金を貯め、自分と共に海外へ行こうとしているのなら、その訳を知りたい。何で今朝、あんなことを言ったのか、教えてほしかった。 ……麻琴に会いたい。早く帰ってきてほしい。 猛烈なまでに思い、それと連動するように胸のうちで不安が膨れあがった。連絡が通じないので、麻琴がどこで何をしているのか不透明だが、いてもたってもいられなくなり、邦孝はソファーから身を起こして寝室へと向かった。 私服に着替えるなど支度をし、0時20分過ぎに家を出た。エレベーターが上がってくるのを待ちながら、タクシー会社の電話番号を調べる。ドアが開いたエレベーターに乗って1階へと降り、深夜のため足音を立てずにエントランスを出て、タクシー会社に電話をかけようとした。 その時だ。マンションの前の道路に、1台の黒いタクシーが停まり、後部座席のドアが開いた。邦孝が足を止めたと同時に、スーツ姿の男性がふたり、中から出てくる。 ひとりは眼鏡の優男で、もうひとりは彼の肩に担がれ、ぐったりとしている。邦孝は目を剥いた。……自分が今一番、会いたかった男だった。 耳に当てたスマートフォンのスピーカーから、老人の声で「はい、都洋タクシーですが」と聞こえたが、無言で通話を切り、電話を持つ手をだらりと身体の横に垂らす。眼鏡の男性が顔をあげ、邦孝に気づいた。 「あ、もしかして、三ツ井さんですか?」 疲弊の色が滲んだ声と微笑で訊ねられ、「あ、はい……」とうなずく。すると相手は「良かったぁ」と締まりのない笑みを顔に広げ、項垂れている麻琴をちらりと見て言った。 「僕は宮田と言います。行平の同期です」 「あ……どうも、初めまして……あの」 「コイツ、具合が悪くて病院に運ばれたんですよ」 「えっ!」と飛び跳ねるような声が出た。驚愕し、彼らのもとへ駆け寄る。 麻琴の顔は赤く、呼吸が荒かった。宮田から彼を引き取り、彼の額に手を当てると、明らかに熱がありさらに驚いた。 今朝は至って普段どおり、元気というわけではないが健康そうだったのに……。自分が彼の不調に気づけなかったのか、それとも出勤してから調子が悪くなったのか。ともかく、麻琴はまぶたを閉ざし、熱に浮かされているのだろう、言葉にならない呻き声をぽろ、ぽろと溢しており、胸が苦しくなった。すごく、しんどいのだろう。

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