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第15話
部屋に戻った邦孝は、麻琴をベッドに寝かせ、用意した氷枕を彼の後頭部に敷き、彼が本格的に眠り始めたのを確認してから、彼の部屋を出た。それから、近くのコンビニで冷却シートとスポーツドリンクを3本ほど購入し、家の冷蔵庫に入れたのちに自室へと行き、ベッドにどさりと沈んだ。
宮田とのやり取りは短かったが、どっと疲れた。
あの男、一見穏やかで人畜無害そうなサラリーマンだが、物事を自分のペースで運ぶのに長けた、隅に置けないタイプに感じた。コンサルタントという職業柄のためか、元々の性格かは分からないが、味方にすると心強く、敵に回すと厄介極まりないだろう。
しかし、風邪で倒れた麻琴を助けてくれ、夜遅いのに家まで届けてくれたのだから、あまり悪く思わないでおこう。それに、自分と麻琴の関係を肯定的に受け止めてくれた貴重な人間だ。今後も麻琴と仲良くしてもらうためにも、今夜の礼も兼ねて彼に渡す菓子折を用意しようと決めた。
……宮田が言うには、明日から来週の日曜日まで、麻琴は休暇を取らされている。勤め先に労働基準監督署の抜き打ち監査が入り、勤務管理の是正勧告を受けたのか、それとも宮田が上司に進言したのか、はたまた上司が見兼ねたのか、何なのか。とにかく、麻琴がずっと家にいる。9日間もだ。そんなこと、社会人になってから初めてだった。
とりあえずは、風邪を治すことが最優先だ。明日と明後日はつきっきりで看病し、状況次第では月曜日に有給を取ろう。今朝の件は、麻琴が元気になってからでいい。時間はたっぷりとあるのだから。
……緊張して、そわそわする。深夜の1時を過ぎているのに、脳が変に昂ぶっているせいで眠気をまったく感じなかった。
今夜はもうこれ以上、何も考えないでおこう。深呼吸を繰り返して身体の力を抜き、まぶたと閉ざしぼんやりとする。……それだけのことで、気分が軽くなる。うつ病の改善のために身をつけた方法が、こういった時に活かせるのだから、決して悪いことだけではなかったのだと、今だからこそ思える。そうやって自分を認めれば、気分はより一層軽くなり、次第に眠くなっていった。
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