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第18話
翌日の木曜日も、麻琴が作ってくれた夕飯を食べた。シャワーを浴び、リビングでぼうっとテレビを見ながらドライヤーで髪を乾かした後、深呼吸を何度かして麻琴の部屋に入る。
彼はベッドの上で半身を起こし、経済誌にメモ書きしたポストイットを貼りつける作業をしていた。火曜日に同じことをしていた時は、「そんなんせんと寝てろ」と咎めたが、元気になった今、そんな小言を言わなくてもいいだろう。顔をあげ、こちらを向いた麻琴に微かな笑みを見せ、彼のそばへと行く。
「どんな記事、読んでるん?」
「……これ。山英商事がアフリカのインフラ事業に本格的に参入やと」
「お前んとこが絡んでるん?」
「あぁ。俺は関わってへんけど、おもろそうやわ」
へぇ、と声を漏らし、ベッドに腰かけてその記事を速読した。「やっぱ、開拓の余地がまだまだあるんや?」
「国力がないだけで、成長する見込みはおおいにあるから」
「それはええな、絶対に楽しい」
麻琴は口角をやわく上げた。それから雑誌をとじ、枕元に置く。
「何か用か?」
「ん? あぁ……」
訊かれると思っていた。が、咄嗟には何も言えなかった。気持ちと視線がふらふらと揺れるも、これではアカンと気を張り、邦孝は麻琴の目をちらりと見た。
「あの、この前の……」
「あの話か?」
首を縦に振った。
「帰ったら話しよう言うて、そのままやったな」
もう一度うなずけば、麻琴は身体ごとこちらを向き、シーツの上で胡座をかいた。
「……俺のためやったりする?」
邦孝は硬い声で静かに訊いた。「お前が仕事頑張ってんのも、その仕事辞めてカナダで暮らそう言うてんのも、俺が病気になったから?」
麻琴の目が伏された。言葉を選んで答えようとしているのだろうが、きっとそういうことなのだろう。それでも黙って、彼の言葉を待った。
「……あんだけ明るくて、何でもできるお前が、心を病むとは思わんかった」
しばらくして、ぽつりとそう言った麻琴は、長い息を吐き出した。
「お前が浴室で倒れてんの見て、俺まで卒倒しそうやったし、うつ病やって診断された時はほんまにショックやった。そこまで追い詰められてたなんて、まったく気づかんかった自分にものすごう腹が立ったし、責任も感じた」
麻琴の述懐は続く。
「ほんまはあの時に、俺も仕事辞めようと思ったんや。やけど、そんなことしたらお前が嫌がる思うたから、それならせめて半年くらい休職しようとした。そしたら、『そのケースであれば、近親者か配偶者でなければ承認できない』って言われてしもうて……その時に海外に行こうって決めたんや」
「ちょっ……ちょっと待って……」
麻琴の吐露を静かに聞いていた邦孝だったが、そこで思わず言葉が飛び出た。……思うことはたくさんある。その中でも休職云々のくだりに、とんでもない何かを察してしまった。
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