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I LOVE 先輩11
絵を描いている陽彩は、静かで真剣だ。
昨日は思った通り絵を描くところまでいかなかったから、こういう陽彩の姿は初めて見る。
絵のモデルというのは、なんというか小っ恥ずかしい。
別に話してもいいと言われているし、少しも動くなというわけではないけれど、見られているというのは落ち着かないものだ。
目のやり場に困りなんとなく外を見ていた俺は、チラリと陽彩に視線を向ける。
そして次には、つい声を上げてしまっていた。
「お前…、なんで泣いてる…?」
「え?」
顔を上げた陽彩の目から、ポロリと滴が零れる。
それでやっと気付いたのか、陽彩は少し驚いたように涙を拭った。
「あ、え?ご、ごめんなさい」
「…いや。でも、どうしたんだ?どこか具合でも…」
「いやっ、違うんです…!ただ…」
「?」
ごしごし目を擦る陽彩は、ほわっと顔を綻ばせる。
「ただ、嬉しくて…。刻久先輩と、こうして一緒にいられることが」
「…っ」
目を見開く俺に、陽彩は照れ臭そうに笑う。
その顔を見た途端
言い表せない感情が一気に膨れ上がった。
「えへへ。気持ち悪いですよね。でもおれ、ほんとに先輩と話したかったんです。だから…」
言葉を続けようとする陽彩の手を取る。
そして自分の元に引き寄せると、その涙を零す目元に唇をあてた。
驚きで見開かれた陽彩は目は、涙を流すことも忘れて俺を見つめていた。
潤んだ瞳が、信じられないと言うようにこちらを見上げる。
「せん、ぱい…?」
自分自身、わけが分からない。
俺は、何をしているんだ。
その時
5分前のチャイムが鳴った。
「「!」」
我に返った俺たちは、ハッとする。
いつの間にか、昼休みの時間が終わりそうになっていた。
「悪い、俺、もう行く」
「ぁ、先輩…!」
陽彩の呼び止める声が聞こえる。
それでも俺は立ち止まらずに、そのまま美術室を飛び出したのだった。
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