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新鮮な先輩6
突然そんなことを言われて、呆気にとられる。
そんなおれを見て、ヒデちゃんは優しく微笑んだ。
「体が弱くて、色が見えるせいで普通に生活するのですら苦労してる。でもその苦しみは、俺を含めて誰も理解はできない…。
…お前を見てると、すごく、どうしようもなくやるせない気持ちでいっぱいになるよ…」
「…ヒデちゃん」
小学校の頃は特に体が弱くて、しょっちゅう学校を休んでは部屋に閉じこもる日々だった。
だから友達なんて作る余裕がないし、何より色が怖くて歩み寄れなくて…。
でもヒデちゃんは、こんなどうしようもないおれに会いに来てくれた。
その日あった学校での出来事を話してくれて、板書してくれたノートを見せてくれて、勉強に付き合ってくれて…。
あの時のおれの支えは、全部がヒデちゃんだった。
「俺がいなきゃ外にも出られなかった陽彩が、1人でいろんなことに踏み込んでさ…。正直いつも気が気じゃないけど、でも、何より…」
「ヒデちゃん」と泣きながら俺に縋り付いてきていた陽彩を思い出す。
何をするにも俺にベッタリで、泣き虫で、甘えん坊で…。
そんな幼馴染が、俺はどうしても放っておけなくて…。
「単純にすげーなって、感心してるんだ。お前は、十分過ぎるくらい頑張ってるよ」
「ひーちゃん」と呼ぶのを止めたのは、この想いを断ち切るため。
陽彩の求めている俺は、《頼れる親友》という立場だから。
でも、俺はいつだって…。
「…ひーちゃん」
「!」
なんで、ヒデちゃんの色…。
秀明は身を乗り出すと、陽彩に顔を寄せる。
近づいてくる秀明を、陽彩はただ見上げることしかできなかった。
そして唇と唇が触れ合う間際…
ピタリと、秀明が動きを止めた。
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