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かわいい後輩3
「…陽彩。あれはどういう会話だ?」
「…いや、刻久先輩は何も知らなくて大丈夫です…」
よく分からないことで盛り上がっている女子たちに首を傾げていると、また陽彩に手を引かれる。
そして目に入った1枚の絵に、俺は息を呑んだ。
「すげぇ…」
絵のことなんて何も分からない俺だが、その絵を見た瞬間一気に引き込まれた。
何よりも目を引くのはその色使いだ。
とても透き通った、綺麗な色をしている。
「これ、先輩の色を頑張って表現してみたんです」
「え」
「なかなか思い通りにいかなくて苦戦しましたけど、何とかここまで描くことができました。あ、ほんとはもっと綺麗なんですよ!」
そう言って身を乗り出して話す陽彩は、興奮して顔を赤らめている。
再度絵に目を向けて、その色を見た。
淡く透き通った、派手なわけでもないのに目を引く色だ。
なんだかこの絵を見ているだけで、陽彩の想いが伝わってくるようで小っ恥ずかしくなる。
そしてなによりも、嬉しいと感じる。
「…すごく、いい絵だな」
「っ、本当ですかっ?」
嬉しそうに陽彩がこちらを見上げる。
俺も笑みを浮かべて、その頭を撫でた。
その途端、向こうから「きゃー!」と声が上がる。
そして次にはシャッター音が聞こえ、陽彩が怒った様子で女子生徒たちをキュッと睨みつけた。
「やめて下さい!なに撮ってるんですか!」
「え〜、だって〜」
「だってじゃないです!」
「安心してよ。これは美術部内でしか公開しないからっ♡」
「全然安心できません!」
何を盛り上がっているのか分からないが、楽しそうなので放っておく。
再び絵に目を向け、そこに広がる色を眺めた。
陽彩には、俺がこんな風に見えているのか。
この色のおかげで、こうして陽彩と出会うことができたのか。
「刻久先輩!もう行きましょう!」
「ん。もういいのか?」
「いいんです!」
プンプンと怒って俺の手を引く陽彩が可笑しくて、俺は今日何度目かの笑みを浮かべていた。
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