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かわいい後輩4
「ねぇ刻久。私に言うことってない?」
「は?」
顔を上げると、目の前の母さんがニコニコと笑みを浮かべていた。
うちは父さんが単身赴任で、家には俺と母さんと妹の3人で暮らしている。
そして今その3人で夕飯を食べていたのだが、突然そう切り出した母さんに俺は嫌な予感がしてならない。
何か胸騒ぎがするのは長年の勘だ。
こういう切り出し方をする時の母さんほど面倒くさいものはない。
「えーなになにっ?お兄ちゃん隠し事してんのっ?」
そうして興味津々というように妹の美久 が身を乗り出す。
美久は中学3年生で、今年は俺と受験が被っている。
「家に2人も受験生がいるなんて…」というのが最近の母さんの口癖だ。
「いきなりなんだよ…。別に隠し事なんてないし」
「嘘だぁ。昨日スーパーで正樹くんに会った時いろいろ聞いたわよ」
「正樹?」
聞いたって何をだ。
頭の中でニヤリと笑った正樹がピースサインを向けてくる。
正直、不安しかない…。
「えーっと、確か陽彩ちゃん?最近随分と仲がいいんだって?」
「ブッ…!」
唐突に出た陽彩の名前に、危うく食べていた物を噴き出しそうになった。
正樹のやつ、何を母さんに話してんだ。
「えっ、ヒイロちゃんって、お兄ちゃん彼女できたの!?」
「アホ。陽彩は男だ」
「あらそうなの?なんか刻久、最近雰囲気柔らかくなったから、てっきり」
「あっ、それ私も思った!なんかお兄ちゃん、ポワポワしてるもん」
「……」
女っていうのは、何故こんなにも鋭いのか…。
俺は肉じゃがを口に入れ、視線を逸らす。
「後輩なんだって?何年生なの?」
「部活はっ?お兄ちゃんと同じっ?」
質問責めしてくる2人に溜息が漏れる。
だから話したくなかったんだ。
正樹のやつ、明日覚えてろよ。
「なんでもいいだろそんなの」
「えー気になるー!教えてよー!」
「というかさ、ウチに連れて来なさいよ、その子」
「は?」
母さんはそう言ってニコニコと笑みを浮かべる。
そこに有無を言わさない圧力を感じて、俺は顔を引きつせた。
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