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はじめては先輩
「へぇ〜。ほ〜。なんか、ある意味予想を超えてきた感じね」
「あ、あの…?」
「……悪い陽彩。気にしなくて良いから…」
家にやって来て早々興味津々な母さんと、何故か食い入るように陽彩を凝視する美久に、当の本人はおどおどと戸惑っているようだった。
通常は人見知りらしい(俺からしたら想像できないが)から、こんなあからさまにジロジロ見られたら居心地は悪いだろう。
そんな陽彩の手を引いて、強引に中へと入っていく。
リビングにやって来ると、後ろから付いてきた母さんがニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「刻久、あんた随分と可愛い子と親しくなったわね?もしかして惚れてんの?」
「なっ…!言い方直球すぎんだろ…」
「ほんと可愛いわぁ〜。肌とかスベスベ。おめめもクリックリねぇ〜」
そう言いながら陽彩の頬をうりうりし出す母さんに、陽彩はなす術なく固まっていた。
それが可哀想に思えて陽彩の手を引く。
「やめろって。図々し過ぎんだろ」
「だってー」
「だってじゃねぇ」
陽彩はやたら母さん世代からの受けがいい気がする。
自然と浮かんできた由利子さんの顔に、そんな感想が浮かんだ。
一方美久は、相変わらず無言で陽彩を凝視している。
その謎の視線に動揺する陽彩を見かねて俺は美久に声をかけた。
「おい美久、何してんだよ…」
「……」
「美久?」
返答がない妹を流石に不審に思っていると、美久はぽつりと呟いた。
「………エモい」
…こいつも、虜になった1人だったか。
どうやら陽彩は、異性のおかしなスイッチを押してしまう才能?があるようだ…。
目をギラギラとさせ、まるで獣のようになっている妹に、俺はかける言葉もなく大きく溜息を吐く。
これ以上ここにいたらいろいろと面倒くさそうに思えて、俺はすぐに陽彩の手を引き階段を登っていくのだった。
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