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不機嫌な先輩
「おい、陽彩。あの人知り合いなのか…?」
「……知り合いというか、兄です…」
「えっ」
言われて再び男性の方を見てしまう。
あははっとこれ以上ない爽やかな笑顔を浮かべている彼は、とても陽彩の兄には見えなかった。
「まさか日本に帰って来てたなんて…。あー、よりにもよってなんで先輩のいる時に…っ」
「陽彩?」
頭を抱えて唸る陽彩に、訳が分からず首を傾げる。
何故陽彩は、こんな危機迫るような顔をしているのだろう。
もしかして、兄のことが嫌いなのか?
「陽彩〜。久しぶりだね〜。また一段と綺麗になったじゃないか!」
そう言って両手を広げ、こちらへやって来る陽彩の兄。
この場合、俺はどうすればいいのだろう…。
陽彩が嫌がっているのなら、間に入った方がいいのだろうか。
そんなことを考え固まっていると、反応する間も無く隣にいた陽彩が前へと出た。
「え?」
「椋 兄〜!会いたかったよ〜!」
甘い声を出し、突進するように抱きつく陽彩。
まるで猫のようににゃあにゃあと甘える姿に、俺は言葉を失っていた。
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