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不機嫌な先輩2
今にもグルグルと喉を鳴らしそうな陽彩。
キスでもしそうな勢いの2人に呆然とする。
しかし次には自然と体が動いていた。
陽彩の首根っこを摘み上げ、引き離す。
「ぐえっ…!」
いきなり俺の目の前で何してんだ…!
ワンコが猫みたいににゃあにゃあするなよ…!
そうツッコミを入れようとした時、初めて陽彩の兄と目が合った。
彼は「おや?」と言うように首を傾げる。
「君は?陽彩の友達かな?」
「え」
…もしかして、今まで気づかれてなかったのか…?
あまりの眼中の無さに顔が引きつりそうになる。
「俺は里中椋。陽彩の兄だ。君の名前は?」
「…藤井刻久です」
「藤井くんだね。いつも陽彩がお世話になってるよ。……さて、陽彩」
「!!」
名を呼んだ途端
ビクーッ!と陽彩の体が強張る。
「陽彩ー?」
陽彩の兄は、満面の笑みで何かを待っているようだ。
それに陽彩はいっそう固まった笑顔で一拍の間を置き…、小さな声で呟いた。
「……ん……」
聞き取れないほどに小さなその声。
それに兄ばかりでなく、刻久までも聞き耳を立てる。
「ん?何かな陽彩。大きな声で言ってくれないと分からないよ」
しかし刻久には全く理解できなかった言葉も、椋には分かっているようだ。
その上でもう一度言ってと催促をする。
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