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不機嫌な先輩4
椋の笑顔が不敵なものへと変わってゆくのを見てとって、刻久は乱暴に陽彩を掴み上げ、俺のものだと言わんばかりに引き寄せた。
それに、兄の眉がピクリと痙攣する。
「……口の利き方に気をつけた方がいいんじゃないかな…?」
静かな怒りを瞳に宿し、陽彩に向けていた甘いボイスは何処へやら。途端声音を低くする椋。
望むところだと刻久が目を鋭く睨み返すと、2人のやり取りに呆気にとられていた陽彩の顔色もざっと変わった。
「や、やだな~椋兄。刻久先輩は軽いジョークを言ってるだけだよ。ほら、ね?そんな怖い顔しないで……りょ…っ……椋おにぃちゃん!!」
陽彩が再び、呆れるほどの満面の笑みをつくる。
それに今度は『お願い』のポーズまでつけてにゃんにゃん(と刻久には聞こえる)甘えた声で媚びる陽彩。
その驚くほどの豹変ぶりで、兄も顔を綻ばせた。
「相変わらず優しいな陽彩は。赤の他人なんて庇う必要ないのに」
「庇うだなんて、そんな。椋兄には怒った顔なんて似合わないから…。おれ、やさしい椋兄が好きなんだよ」
「俺も陽彩が世界で一番好きだよ」
「あ、あはは…。や、やだなぁ、椋兄までジョークとばしちゃって…っ」
アハハ。ウフフ。
よしよし。にゃあにゃあ。
そんな、現実離れした声すら聞こえてきそうなほどのやり取りを交わす二人。
突然現れた“実の兄弟”の睦み合いに、刻久はついていくことができず呆然としているのだった。
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