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不機嫌な先輩9

それからどのくらいの間指での愛撫が続いたのだろうか。 1本で結構長く慣らしたはずなのに、2本目を入れると圧迫感を感じる。 「やっぱすぐには無理か…。強引に入れたら怪我しそうだし」 「うぅ…」 刻久先輩の全部を受け入れるって決めたのに、自分の至らなさに涙が出そうだ。 こんなことなら、自分で事前に準備をしておくべきだったのだろう…。 今更気づく知識のなさに頭を抱えたくなる。 「すみません…っ。もういっそのこと、一思いにやってください!」 「いや、だからそんなことしたら怪我するだろ。陽彩が痛がることはしたくない」 「でも…っ」 泣きべそをかくおれのおでこに、刻久先輩が優しくキスをしてくれた。 見上げるとかっこよ過ぎる笑みを浮かべる先輩がいる。 彼はおれの頭を撫でながら、小さな子供を相手するように話しかけてきた。 「陽彩、大丈夫、焦ることなんてないから。俺たちはゆっくりやっていこう」 「…先輩」 「といっても、泊まりに来て早々にガッついちまったから説得力ねぇな…」   そう言って苦笑いを浮かべる先輩。 そんな彼を見つめていたら、とくんっと胸の高鳴りを感じた。 胸のあたりがポカポカと暖かい。 それにきゅぅぅっと苦しくもなる。 あぁ、好きだ。 おれは先輩が、どうしようもなく大好きだ。 初めて先輩の姿を見た時、一瞬で周りの世界すらも変化した。 その綺麗な色に、おれは全てが救われたんだ。 他人の色を見ることが怖くて、何もかもが濁って見えていたおれの目を覚ましてくれた。 刻久先輩はおれの救世主。 誰よりもかっこいい、おれのヒーロー。

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