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知らざる後輩
放課後、陽彩は美術室で黙々と絵を描いていた。
その絵は次のコンクールに出す為のもので、陽彩は流れる汗を拭うことも忘れて作品作りに没頭していた。
先輩は今頃、受験に向けての特別授業を受けているはずだ。
自分も3年生になれば同じようになると思うと気が重い。
正直進路は未だ決まっていなかった。
1年生の大半はそうなのかもしれないが、少しでも考えておいた方がいいのかもしれない。
ウチは椋兄がハイスペックだからな…。
両親は「陽彩は陽彩でいいんだから、椋と比べる必要ない」と言ってくれるけど、ちゃんとしなきゃならないのは分かってる。
下手したら進路次第で、椋兄に「もうこれは俺が養うしかないな!」と海外に連れてかれかねない。
自分で言うのもなんだけど、椋兄はかなりのブラコンだ。
忙しいだろうに頻繁に連絡はくるし、将来一緒に住む為の計画を勝手に進めようとしてくるし、ブラコン過ぎて付き合った彼女とも長続きしない。
もう椋兄だって25歳なんだから、本格的に結婚を考えたりしないのだろうか。
そうしてあわよくばおれから意識が削がれることを期待する。
「おーい、陽彩くーん」
「っ、あ、はい」
「もう部活終わりの時間だから、後片付けしてね」
「…っあ、もうこんな時間か」
時計を見れば最終下校時刻までもうすぐだった。
集中するとつい周りが見えなくなってしまっていけない。
まぁ今回は考え事をしてしまっていたのだけれど…。
先輩と一緒に帰れないかな…。
今まで登下校はいつもヒデちゃんとだったけど、付き合うようになってからは下校する時だけ刻久先輩と一緒している。
ヒデちゃんが気を遣ってそうしてくれたのだ。
朝は相変わらずお世話になりっぱなしだけれど。
でも3年生はもう30分しないと授業が終わらないから、ここ最近一緒に帰れていない。
30分も待たせるなんて悪いからと先輩には言われているけど、今日は待ってみようかな。
怒られるかもだけど、先輩に会いたいし(朝も昼も会っているけど)。
そう思ったら気分も軽くなって、おれはルンルンと帰り支度を始めるのだった。
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