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知らざる後輩4

秀明の母親は一度何かにハマると家族全体を巻き込むくらいにのめり込む傾向がある。 しかし1ヶ月もすればパタっと何事もなかったように熱が冷めるのだ。 「1ヶ月の辛抱だろ?頑張れ頑張れ」 「はぁ…。人事だからって無責任だなぁ」 嘆く秀明に背を向け、椋はニコニコと陽彩の隣に腰を下ろす。 そしてぎゅうぎゅうハグをし、頬擦りをしながら甘い声で言った。 「ほーら陽彩〜。いつまでも拗ねてないで肉まん食べよう?陽彩は猫舌だから、お兄ちゃんがフーフーしてあげるからな〜」 「……もう上行く」 「え」 兄に構わず立ち上がった陽彩は、スタスタと階段を上がって行ってしまった。 「…これはもしや、反抗期?」 「あはは…。ただ単に虫の居所が悪いだけじゃないかな。最近藤井先輩が忙しいって言って……、あ」 「藤井先輩?」 しまったと口を塞ぐ秀明に、椋はすっと目を細める。 その途端、さっきまで悠々としていた秀明に緊張が走った。 普段の椋相手になら気軽に接することができるが、一度スイッチが入ってしまうと親しみよりも恐怖が勝る。 陽彩だってただ過保護なだけの兄相手だったら、態々デレるフリなんてしないだろう(今日は珍しく不機嫌になっていたが)。 「藤井先輩って、あの藤井刻久くん?」 「えっ。りょ、椋さん知ってる……んですか?」 「まぁね、偶々会ったんだよ。随分と陽彩と仲良さそうな子だったなぁ。陽彩は基本、ヒデ以外に懐かないのにねぇ」 「……」 椋さんの勘の鋭さは、小さい頃の思い出から痛いほど知っている。 陽彩と何かをやらかしてしまった時、どんなに証拠隠滅しようとも一瞬でバレ、それは恐ろしい仕置きを受けたものだ…。 この椋さんの様子だと、多分、大体の察しはついてしまっているのではないだろうか。

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