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ピンチな後輩

足りない…。 何が足りないのかと言われれば、刻久先輩成分が足りないのだ。 朝昇降口で挨拶をして、お昼は一緒にお弁当を食べる。 もちろんその時間は幸せで堪らないのだけれど、その2度以外はまともに会えず携帯でのやり取りだけだ。 それも先輩は受験生なわけだから、たくさんメッセージを送ることも憚れ…。 先輩の受験を心から応援したいはずなのに、自分はなんて面倒くさいのだろうと嫌になってくる。 「というか先輩、どこの大学に行くんだろう…」 部活が終わり昇降口に向かいながら、思い浮かんだことをポツリと呟いた。 県内の大学だとは聞いている。 でも具体的にどことは知らなかった。 別に隠しているわけではないだろうし、寧ろこれはおれのせいだ。 進路の話をすると今後のことが不安になったりして勝手に落ち込んでしまうから、深く聞いてこなかった。 先輩にとってもおれにとっても大切な話なのに、ビクビクしている自分が恥ずかしい。 でもだって、大学に行ってしまったらもう学校では会えない。 おれは来年2年生で、更にまだ3年生が待っているから、その状態が2年も続くのだ。 やっと大学に入ったって、今度先輩は就職について考えていく時期になる。 こんなすれ違いというか、少し距離が開いた状態で、おれは見捨てられてもおかしくないのではないだろうか…。 だって元々おれが強引に接近したわけだし、他の綺麗な女の人の方が魅力的だし、おれはガキだし、チビだし、男だし…。

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