72 / 90

知らざる後輩8

物凄いことを言われて飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。 なんとか堪えたことでゴホゴホと咽せて、次には周りをキョロキョロと見回す。 幸いこちらに視線を向けてくる人は誰もいなかったので、小さく息を吐く。 「い、いきなり何言ってんですかアンタ…」 「いきなり?ちゃんと前置きはしたと思うけど」 そう言ってニコリと笑う陽彩兄。 やっぱりこの人とは一生かけても分かり合える気がしない…。 「で。どうなんだい?」 「……なんで、そんなことを聞くんですか」 「いや。君、陽彩と付き合ってるんだろう?」 「……」 言われて口籠った。 ここで否定するのも、少し違う気がする。 かと言って陽彩の許可なしに明かしてしまってもいいものか。 暫く迷ったが、目の前の相手の目を見て、ここで引いてはいけないと思った。 背筋を伸ばし、真っ直ぐに陽彩兄を見つめる。 「はい。付き合ってます」 「……そう」 その目がスッと細められる。 そして陽彩兄は一度紅茶を飲み、徐に口を開いた。 「俺は陽彩の兄として、陽彩の恋愛事情について知る権利がある」 「…いや、アンタの場合その知る域を超えてますよ」 「超えてる?それを言うなら俺が陽彩を愛しいと思う気持ちの方が超えている」 「なんすかその謎の張り合い…」 あーもーいやだ帰りたい。 誰か助けてー。 今すぐここから逃げ去りたくなるが、なんだか負けた気がするから嫌だ。 この人相手だと、基本あまりないはずのプライドとか負けん気がフツフツと湧いてくる。 「で、どうなんだい?俺の可愛く清らかな弟に、汚れた知識を与えたのかい?」 「……言わせてもらいますけど、少し、いや大分過保護過ぎはしませんか?血の繋がった弟相手に、普通そこまでします?」 さっきまでニコニコと笑っていた陽彩兄から表情が消えた。 黙り込む相手を不思議に思っていると、ぽつりと、彼は呟いた。 「繋がってないよ」

ともだちにシェアしよう!