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ピンチな後輩10

「失礼します…」 化学準備室に入ると、中には誰もいなかった。 扉は開いていたから奥にでもいるのかな?とキョロキョロしながら部屋の中に入る。 「あれ…。ここであってるよな…」 なんだか少し不安になってきて、一旦外に出ようかと踵を返す。 しかし回れ右をした陽彩は、次には足を止めていた。 入り口に、男子生徒が1人立っていたのだ。 上履きの色からして2年生だろう。 中肉中背の黒髪で、眼鏡をかけた大人しそうな先輩である。 そう。ただパッと見た分には特に特徴もない男子生徒だろう。 しかし陽彩の目には、それは異質なものに見えていた。 なんかこの人…、色が、怖い…。 「あ、の…」 恐る恐る声をかけると、無言だった相手が真っ直ぐに陽彩を見つめた。 その視線にさえ、体が凍りつく。 体が危険を訴えていた。 この人とは、関わらない方がいいと。 「今日は、直接渡そうと思ってね」 「…ぇ?──っ!?」 そう言って差し出されたものを見て、悲鳴が上がりそうになった。 それは手紙だった。 いつも靴箱に入っているものと同じ、真っ白な便箋。 「朝もあげたけど、今日は特別だよ」 「……」 「受け取って。陽彩くん」 相手が一歩、中に入ってくる。 そして自然な動作で扉を閉め、鍵をかけた。 陽彩は無意識に後ずさる。 「本当はね。ただ見守っているだけでよかったんだ。でも陽彩くんがあんまりも心配をかけるから」 「……」 「どうしたの?さぁ、受け取ってよ陽彩くん」 一歩。また一歩と近づいてくる男子生徒。 それから逃れるために後ずさっていた陽彩だったが、ついに背中に壁の感触を感じた。 もう、逃げられない。

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