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第34話 稲魂

   部屋に戻り携帯を手にとる。桜井の答えを待っていたはずが、先にどうしたいのかこちらから答えを出せと言う。  「馬鹿野郎、お前とは違うんだ」  連絡先から桜井の名前を呼び出す、それでもその名前をタップすることが出来ない。  携帯の着信履歴をたどってみた、最近の着信は桜井……それと藤倉。  ……たったこれだけの世界で自分は生きているのだと知る。  「は……これだけか」  指で画面をスクロールするときに間違って藤倉の着信履歴に発信してしまった。驚いてつながる前に慌てて電話を切った。大丈夫、つながってはいない。そう思った瞬間に藤倉から着信があった。  「はい……」  『……どうした、今ワンコールで切れたぞ何かあったか?』  つながる前に切れたと思っていたのに……今、藤倉と話をするのはまずい。こんな状態で話すをすればすぐに気取られてしまう。    『何があった?お前から電話なんてよっぽどの事じゃなきゃかかってこない』  「大丈夫、なんでもない」  『大丈夫?なんだその言い方……何かあったな。すぐ行く、家にいるのか?』  「いや、その」  『家にいるんだな、待ってろ。すぐ行ってやる』  携帯はすぐに切れた。藤倉と会うのはまずい、それだけは間違いない。どうしようと気持ちばかり焦る。今、外に出たところで行く先もない。そして一番やっかいなのがどこかで藤倉に会いたい、助けてほしいという気持ちがあることだ、だから動けない。  思案しているうちに外でタクシーの停まる音がした。  「どうした、何があった?」    部屋に入って来るなり、藤倉に抱きしめられた。抵抗する気もおきずただされるがまま動かなかった。  「……何もないよ」  「俺の目を見て、もう一度言って」  「な、なにも……」  「あったか。あいつか?桜井とかいう若造」  「…ちが…」  「そんな気はしてたんだが、お前が傷つくのが一番怖い。お前は俺のそばで笑っていて欲しいんだ」  今更ながらに自分の身勝手さに腹が立つ。こんな時だけ利用していい関係ではないはずなのだ。  「藤倉、心配してくれてありがとう。大丈夫だから、自分の力で進まなきゃいけなんだ」  「頼ってくれよ、な?」  「こんな時間に出てきて大丈夫なのか?悪かった、心配させて」  「……お前が俺を必要としてくれるなら家を出るよ」  「えっ?」  「何をいまさら……終わった話だ」  もともと藤倉の結婚は生まれた時から決まっていた。子孫を残し、伝統芸能を伝承するために相手も選ばれた家の女性であった。  藤倉は結婚を目前にして自分が同性を好きになったこと、だから結婚もできないと家にも相手にも告げた。それで終わると言っていたが、その相手と別れることを条件に全て不問に付された。  そして、何度もの話し合いを経て藤倉の元を去った。それなのに、今さら何を言い出すのだろう。  「一稀、やり直せないか?二度と離さないから」      

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