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第39話 天灯
「羽山さん……もうお休みになりますか?」
耳元で囁かれて、身体がびくっと震えた。その質問に答えろと言うのかと苦笑いする、桜井はどこまで行っても桜井なのだ。
「……眠れないんだが、お前は?」
「そうですね、私も眠れそうにありません」
桜井はゆっくりと身体を横たえた、身体を半分抑えるように包み込む桜井の重さが心地いい。
「……」
「では、話をしますか?」
「……え、話?」
「ええ話です、それが駄目なら他の選択肢を羽山さんが出してください。私はもう一つ出しましたから」
この奇妙な駆け引きは何なのだろう。他に何の選択肢を示せと言うのだろう。出さなければ、このまま朝まで本当に話をするというのだろうか。
「桜井……お前、服着ないのか」
「基本寝るときは着ません。羽山さんは、いつもこんなにしっかりパジャマのボタン上までとめるのですか?」
「いや……」
「暑くありませんか?」
身体が熱いのは、桜井がそこにいるからだ。そして普段は身に着けない衣類を持ち出したのも、桜井がそばにいるからなのだ。
「いや……」
「……七夕ですね」
「ああ、そういえば」
「七夕飾りに提灯の形をしたものがありますよね」
「……そうか?」
「あれ、短冊に書かれた願いを照らして、よく見えるようにとの意味があるそうですね」
「……」
「ここにも下げたら、羽山さんの願い見えますか?」
「……お前、よくしゃべるな」
「一晩中、話をするという選択肢しかなかったもので……」
「じゃあ、もう一つの選択肢だ。黙って今日は眠れ」
「最初に眠れないとおっしゃったのは、羽山さんですよ」
くすくすと桜井が笑う、それにつられてつい笑ってしまった。
「そうだったな……俺だ」
「眠れそうですか?」
「お前は眠れそうか?」
そう聞くと、桜井の手がパジャマの中を滑ってきた。
「ええ、少しだけ触らせてください」
「……そういう確認は…いらない」
「はい、これからはしません」
桜井の触れるところから少しずつ火がついていく、このまま燃えて灰になれば何も感じずに眠りにつけるのだろうか。
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