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第40話 早暁

   感情と体温の高まりが呼応する。互いの情欲を慰めるように身体を重ねる。熱い渦にのまれて呼吸さえできない。自分自身の乱れた息に煽られてさらに熱くなる。  自分の熱が感染ったのか、桜井の呼吸の速度が乱れて同じになる。  「これ外しても良いですか?」  許可をもらうかのように問うが、既にシャツは半分はだけてしまっている。そして、返答も何も待たずに、先へ先へと急ぐ桜井の指先に自分の価値を知る。  「お前、性急だな……」  言葉とは裏腹に自分自身の方が飢えていると分かっている、その飢餓は伝わってしまっているだろうか。  「すみません……」  桜井の背中に手をまわして、引き寄せる。あさましいほどに貪欲な自分が見え隠れして、どれだけこの瞬間を渇望していたのかが分かった。  全身で桜井を感じることのできる喜びからか息が上がるのも早い。相手の様子をうかがう余裕もない、自分の事で精いっぱいだった。  弾けるほどの感情が自分の中にまだあったことに驚く。ここ二年ほど誰とも体を重ねていはいない、もう自分には色恋など必要がないのかもしれないと思い始めたころに桜井に出会った。それから一年を経て今その桜井の腕の中にいる。  「触らせてください、羽山さんにも触って欲しいです」  頭が沸騰する、思考が飛ぶ。相手が十も年下の男だという事さえもう気にならなくなっていた。今はただ欲の波にのまれていたい。  ただ手で触れられただけで、そこから熱が広がり指先まで侵食された。あっという間に達してしまい自分の身体のコントロールがきかない事に驚いた。  少し脱力した体を桜井が優しくタオルで拭う、もう何もする力も残っていなかった。ただただ眠りたかった……。  桜井が隣にいては眠れないだろうと思っていたのに、朝まで夢も見ずに眠った。気が付くと外は明るくなっていた。  ……また身動きが取れないほど強く抱きしめられている。  「桜井、苦しい」  「すみません、おはようございます」  「お前、ずっと起きていたのか?」  「はい、羽山さん気持ちよさそうに寝ているので見てました」  桜井はいつもと変わらない、まるで昨日の夜が夢の中の出来事だったように思えてくる。  「馬鹿なことを」  「寝顔、新鮮でしたよ。けれど……羽山さんは私でよかったのですか?」  「え……?」  いまさら何を言うのだと思ったが桜井の顔は真剣だ。  「昨日の夜……誰か来ていましたよね」  「……」  それだけを言って、桜井は立ち上がった。  

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