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第43話 疑惧

 「課長、週末どちらかへお出掛けでした?」  「……あ、ああ、所用があって少し。なぜ?」  なぜそんなことを聞くのだ、どこかで見られたのかと、心臓が痛くなる。桜井と朝から一緒のところを見られたとしたら?    いきなり咎められたような気持になった。  「いえ、日焼けされているので」  「そうか……焼けたか、気が付かなかったよ」  見られていたわけではないと分かり、胸をなでおろした。この先何度こんな思いをするのだろうと怖くなる。桜井はどう考えているのだろう。  桜井の今後に影響してしまうのは困る。一時の気の迷いで、一生を棒に振らせるわけにはいかない。万に一つ桜井と付き合うとしても、隠し通すことが大切なのだ。  結局、あの日は桜井に連れられて海岸線を散歩した。その後、買い物に付き合って欲しいと言われ混雑したモールを歩いた。  別に友人と出かけるのは、おかしなことではない。ただ、もと会社の上司と部下で、さらに十も年が違う、なんの接点があるのかと問われた時にまともに答えを出せない気がしている。  もともと週末に用もなく出かけることなど無かった。ましてや誰かと出かけるなど、あり得ないと思っていたのに。  ……桜井は、どういうつもりなのだろう。  確かに自分の気持ちはもう誤魔化しきれないところにあった。桜井に背中を押されてようやく、前に進むことが出来たが次のステップが見えない。  アパートに帰りついた時には、慣れない人込みに酔い、慣れない桜井との距離に疲れ果てていた。  「帰ります、お疲れのようですし」  その様子にすぐに気が付いた桜井は、そう言い残して帰っていった。その夜一通のメールが来た。  『今日はありがとうございました。あちらこちら引っ張り回してすみませんでした。この次はどこへ行くのか羽山さんが提案してくださいね。どこへでもお付き合いします。では、おやすみなさい』  『こちらこそ、ありがとう。また……』そこまでメールを打ってバックスペースで消した。そして、『おやすみ』それだけ返信すると携帯をテーブルに戻した。  翌日の日曜日、朝から落ち着かなかった。何か連絡があるのかもしれないと、携帯の画面を見てはまたテーブルに戻すという作業を何度かくりかあた。  携帯は静かなまま、ぴくりとも動かなかった。  ……桜井から連絡が来たのは結局、夜だった。  『今日は学生時代のゼミの仲間と釣りに行ってきました。今度一緒に行きませんか?羽山さんはどう過ごされましたか?おやすみなさい。また明日』  ああ、そうだ、桜井の世界は自分が知っているものより広いのだと思い知らされた。藤倉とは違う、待つことを決して強いてはこない。簡単な身体だけの相手なら良かったのにと、そんな事さえ思ってしまう。藤倉の言ったように、らしくない恋愛をしているのだろう。  何をどう優先して、何を犠牲にすれば良いのか分からない。今まで金魚鉢の中で生きてきたのに、いきなり大海に放り出されても無理なのだ。  次の週末、何の約束もない……そうやって縛られない事が、不安なのか、安堵なのか……自分でも理由の分からないため息が出た。  

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