無理やりこじ開けられた扉から、隠していたはずの無数の鬼が飛び出して暴れる。今まで誰にも見せなかった醜い嫉妬や独占欲がぼろぼろとこぼれだす。桜井の偽らない言葉に引きずり出され、さらされてようやく自分の隠してきたものを認めるしかなかった。 　「また、失う……」 　「また？そうやって無意識に誰かと比べないでください。何も見えないように無茶苦茶にしたくなります。羽山さんに約束なんてしたくないと言われた私の気持ちわかりますか？どれだけ、苦しかったか」 　「お前は、若いし」 　「それを言われるとどうしようもないんですよ。どう頑張っても年齢だけは追いつけない。他で追いついていきますから、ですからそばに居させてください」 　「勝手に、すればいい」 　「駄目だとは言いませんでしたよね、二言は無しですよ。今日、このまま連れて帰ります」 　「は？どこへ？」 　「マンション借りました、ここだと他の男が出入りするじゃないですか？藤倉さんも御園さんも迷惑です」 　「引越したのか？」 　「正確には父親の持ち物なので、借りたっと言うより……まあ、近いうちに紹介します」 　「紹介って誰に？お前は馬鹿か」 　「親ですから分かってくれます」 　「親だから分からないんだよ、もうあんな思いはしたくない」 　「誰を引き合いにしているのですか？ああ、気が変になりそうだ」 　「何をするんだ？」 　ベッド引き摺り倒されるように横にされた。そうしてきていたシャツと下着を合わせて捲りあげられた。体を起こそうとすると両肩を押さえつけられる。 　「じっとしていてください。今抵抗されたら酷くしてしまいそうです。お願いですから大人しくしていてください」 　ジッパーにかかる手を払いのけようとする。 　「だ…やめ」 　「羽山さん、本当に？」 　問われても答えられない、その隙に腰回りが緩められた。桜井の手が身体中を弄る。その手の動きに合わせて自分の身体が揺れる、揺らされているからではなく自ら手の動きについて行く。コントロールできない欲求と目の前の男の視線に頭がじんじんと痺れてきた。 　「あっ、……い…た」 　「こうやってここを少し無理につねられるのも好きでしょう？」 　上半身を弄っていたその手が一番敏感な部分を強ひっかくようにして捻った。 　「い…うな……」 　「ここですよね、知ってます。こうやって脹脛を舐めると、脚の筋肉に力が入って軽く痙攣するように動きますよね。そしてこうやって膝の裏を噛むと……」 　「だ、まれ」 　「そうですか？羽山さんの身体の事よくわかっているでしょう？」 　「さ、く、らいっ！もう…」 　「やめて本当にいいのですか？」 　桜井を押し戻していたはずの腕はシーツを掴んで体を浮かせようと、桜井に近づけようと支えていた。やめろと言う言葉とは裏腹な自分の行為は光に向かって飛ぶ蛾の様だ。解っていても仕方がないのだ、一度目に焼き付いてしまったその光の中心へ焼け死ぬと知っていても進むしかない。 　「戻れない……」 　言葉の形になってこぼれた気持ちが桜井の耳に届いた。 　「もう戻しません。やっと手に入れたのに、あなたはどうしてそうふらふらと」 　シャツを脱ぎ捨てる桜井の身体を見ながら、その肌に触れる瞬間を心待ちて肌がぞぞと粟立った。