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※弟9話
ずとん、と長いストロークで貫かれたかと思うと、今度は短くずちゅずちゅと括れた部分で内壁を引っ掻かれる。ぐちゅぐちょと卑猥な音が響き渡る室内で、僕は喘ぎをこぼしながら熱い身体を捩ることしか出来なかった。
耳もとでは熱を伴った棗の荒い息づかいが直に聞こえる。棗の体重を全身に感じ、まるで本能で熱烈に求められているような感覚だ。
ぐちゅ、ぐちゅぐちゅ、ぐちゃくちゃ!
「ふぅっ、ぁっ、ふあぁんっ!」
ぐちゅ、ずじゅぅぅぅぅぅぅ、くちゃ。
「ぁっん、んんんっっーーーーんっ!」
不規則な棗の腰使いに伴って、僕の口からは勝手に声が漏れ出る。突き入れられる度に僕の内壁は棗を食むように、飲み込むようにまとわりつく。そして引き抜かれる度に逃すまいとぴたりと棗に吸い付いて離れない。
コントロールの利かない身体は棗を受け入れ逃がさないように、本能の赴くままに反応する。少しの羞恥と、もう何もかもどうでもよくなるような充足感、身体で感じる快感と、大好きな棗に満たされたいるという心の快感。多幸感で頭がぼーっとする。
それでも、僕を求める棗を目に焼き付けておきたくて、必死に棗に視線を向けた。
首を傾けたことで、棗の汗とシャンプーの匂いが香った。棗の匂いは汗を含むというのに野性的でセクシーで不快感はなかった。それどころか、嗅覚刺激によりいっそう快感が高まって無意識に反応してしまった身体がまた棗を強く締め付ける。
「うぅぁ、ふくさっ!きつっ!」
棗が中でピクピクと小刻みに震えるのが分かる。見上げた顔は快感に耐えるような表情をしていて、僕はもっと棗にもふわふわのとろとろに気持ちよくなって欲しいと感じた。
だけど、どうすればいいのか分からない。棗
をもっと気持ちよくしたい。どうすれば。
「んんっ、なつめ、もっと、んぁ」
もっと気持ちよくなって欲しい。どうすればいいのか。そう聞きたかったが、そのときひときわ強い力で奥を突かれて、言葉が続かなくなってしまった。
ずぽずぽ、ちょず、ちっ、と棗は腰の動きをさらに早めてピストンを繰り返す。
「はぁっ、はぁ、帛紗、えっちだね。」
ささやかれて赤面する。抗えない快感に無防備な全身を晒させられ、棗を気持ちよくしたい、と考える余裕が無くなってしまった。
一度、腰の動きを緩めて棗は僕を優しい顔で見下ろした。棗の指が僕の頬に触れる。愛しいものを見つめるような目で僕を見て、耳や首もとを擽りながら言う。
「かわいいね、帛紗。」
たまらない。ずっと求めていた。棗に僕だけを見て、名前を呼んで、僕のためだけに時間を使ってほしくて、見返りなんていらないと言いながら、心のどこかでずっと欲してた。
それが今、叶ったというのか。
「なつめ、」
嬉しさに涙が滲んだ。こらえきれずに頬を伝った涙が棗の指に届く。それを見て、棗は困ったように笑った。
「ごめんね。」
棗が、また、そう呟いた次の瞬間、獲物をとらえて話さない狼のような野性的な雰囲気を放ち、一気に腰の動きを強めた。
「あぁぁぁぁっっっ!!んっぁだぁめっ!」
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅずぢゅっ!!!
強すぎる快感に急速に絶頂まで上り詰める。もっと、もっと棗との時間を楽しんでいたいという気持ちと、このまま先の景色を見てみたいという気持ち、それらが相まって言動がおかしさを増す。ダメ、まだ終わりにしたくない。だけどイキたい。
ずぱん!ぱん!ぱん!くちゅくちゅくちゅ!
また強く奥を突かれて、もう喘ぎをこぼすことしか出来なくなった。
「ふくさっ、いいよ、イキなっ!」
くちゃくちゃっずちゅっずずずっ!!
ぐりゅりゅっずっづっ!!!
「んぁぁーっっ!!んぁっ、イクッゥッ!」
絶頂に持ち上げられた状態だった。それなのにさらに、僕のイイところを棗の硬いそれで押し潰されて、さらに上の段階の快感へと押し上げられる。僕はたまらなくなって達してしまった。
痺れの引かない僕の中で、未だ硬く滾ったままの棗がまたピクピクと震える。
「っふぁ、綿紗、ごめんねっ。」
ぐぐぐぐっ、ずちゅっ、ずちゃっ!
「んっふぅっあぁぁぁぁーー!!」
まだ痙攣の収まらない中を、棗のそれでかき混ぜられる。力の抜けた身体に無理矢理に快感を押し付けられるようなその感覚がたまらない。
「なっつめっ!なつめぇぇっ!!」
定まらない焦点をどうにか棗に合わせ、必死で追う。どうにかとらえた棗の姿は、本能的に僕を求めるようだった。
「っ!ふくさ、イクよっ、っ!」
棗のものがぶるりと震え、僕の中で薄いゴムに精を放った。
ゆっくりと、撫でるようにストロークを繰り返し、痺れが落ち着いた頃、棗は僕の中からずるりと出ていった。
その感覚がまた小さな快感を生んだが、それはすぐにおさまり、かわりに訪れたのは途方もない切なさだった。
目を閉じると、先程みた棗の困った顔が浮かんだ。少しだけ冷静になって、涙なんて流すべきではなかったと思い至った。棗に求められた嬉しさのあまり泣いてしまったが、棗はすごく困った顔をしていた。
思えば、棗に行為をねだった時も、腕や体にすがった時も、好きだと言った時も困ったように笑っていた。
きっと棗は僕の恋する相手が男だと知って、同居人である僕と身体の付き合いをもてば楽だと考えたのだろう。
身体を求めているだけなのに、いちいち泣く相手だなんて面倒なだけだ。
もし、次があるならば今度は絶対に泣いたりしない。面倒だと思われちゃダメだ。扱いやすくて便利で、時には身体をなぐさめあえる同居人、そうなろうと僕は心に誓った。
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