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第15話 Side棗
「棗さん!いい加減限界です!!!!!」
「棗、俺たちから上手い飯を奪い、癒しを奪い、掃除というタスクをこれでもかと課した挙げ句にふけるとは何事だ。」
「棗の、進めておいたから確認して。」
「棗だけ弁当あるのずるい。」
「…すまん、今回ばかりは助けられん。」
帛紗の側に居るために急に休んだ翌日、顔を見るや否や、メンバーたちは言い立てた。
帛紗がここに来なくなって以降、家事はメンバーで分担して行っていたのだが、どうやら限界を迎えたらしい。
スケジュールを組んでいる俺が言うのもなんだが、ここのところメンバーはタダでさえキツイ予定をこなしてくれている。
そろそろ人員補充をしなければならないと考えていた矢先のことだった。
「分かった。家事はプロ呼んで、食事も提供する。いま進めてるコラボ分のエンコードが済んだらみんな休みとれるよう調整する。
ただ、昨日は休むって連絡したろ?ふけたわけじゃねぇっ!帛紗が体調崩してんだから当然有給使うだろうが!
それから唐津 、俺の担当なのに進めてくれてさんきゅ。」
まとめて返事をすると、メンバーはまた騒ぎ出した。
「棗さん!!!顔!顔面重視で選びましょう!!!あと料理上手いひとがいい!!」
「ついでに最新版のMac Proも採用しよう、フルスペックで。」
「賛成。最新版。フルスペックで。」
「癒しはどうするの?猫飼おうよ!」
「あー猫!いいな!飼いたい!」
「おまえら!自由だなぁ!」
そんな訳で、機材と猫は後に回してひとまず家事代行業を依頼することにした。
スタジオ内は日常的に撮影することがあり、ちょっとした場面を投稿することもあるので動画出演可のひとを探したのだが、これがなかなかに少なく、選ぶ余地もないことからすぐ見つかったのだった。
ちなみに、綿紗に関してはあの可愛さを世間に露呈させる訳にはいかないので、映り込みはいじでも編集させていた。全く苦ではなかったがメンバーたちは大変だったようだ。
そしてやって来たのが伊万里だった。料理上手で可愛くて顔出しOKなハイスペック最新版の家政夫さんだ。
おかげで家事の負担が減り、休みに向けて動画制作に集中できるようになったのだが、俺にとっては非常に不都合なことがあった。無論、帛紗に会えないことだ。
メンバー全員が休みを取れるように作業予定を前倒しにしたため、毎日帰りが遅くなってしまう。帛紗が足りない。帛紗に愛を伝え足りない。
疲弊する毎日の中では帛紗の可愛さも帛紗の作る料理の上手さも3割増に思えた。
そして、後少しで編集作業にもキリがつき、ゆっくり休めるというタイミングで、帛紗がスタジオに顔を出した。
帛紗が唐津に微笑んでいた。
それだけなら、まだ、腹はたつが、いつものことだった。
しかし今回は、伊万里が帛紗をやたらと見ているのが気になった。
一体、何だというんだ。
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