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第21話 side棗

早く、帛紗に会って誤解を解かなければ、そう思ったが、帛紗はすぐには見つからなかった。 メッセージをいれても既読はつかない。電話も繋がらない。職場へも連絡してみたが、日曜日で繋がらなかった。 帛紗の行くあては織部を除いて他に思い付かなかった。 もう何年も一緒に居るというのに、俺は帛紗のことを案外知らないのだと、今さらながら気づかされた。 スタジオに休むと連絡をいれれば、心配したメンバーが帛紗を探すのを手伝うと言ってくれた。秒速で今後の予定を計算した。 予定している分は投稿予約をしてあるから大きな問題はない。休みに向けてストック分の編集は済ませてある。問題ない。 コメントチェックは先延ばしになるが、今はなにより帛紗が大切だ。 そして総出で探したが、結局、夜になっても帛紗は見つからなかった。 散々歩きまわって痛む足を引きずって、駅前の繁華街から外れた道に来た。縁石に座り込み、考えるのは帛紗のことばかりだ。 帛紗が俺を好きでいてくれてたんだと知り、これまでのことを思い返せば、行き違っていたんだと理解した。 暗くなるにつれて、募る不安を払拭できなくなっていく。 このまま二度と帛紗と会えなかったら、 もう一度会った時に気が変わったと言われたら、 そのまま帛紗に思い会う相手ができてしまったら、 けれど、考える末に辿り着く答えはいつもひとつだった。 それでも俺は帛紗を諦め切れずに未練がましく思ってしまうんだろう。 ずっと変わらない。 どうなったって俺は帛紗に見えるように輝き続けるだけだ。 帛紗は動画制作を手伝えないのが寂しいらしかったが、目に見えなくても俺が動画投稿を続けられているのは、ほとんど帛紗のおかげだ。 メンバーにも話したことはないが、投稿も配信もやめようと思うことが何度もあった。 実直なコメントがいやにささったり、似通った企画ばかりを機械的にこなしては投稿しての無力感、伝えたいことと求められることとのギャップ、楽しむことより評価を気にしてばかりいた時も、いつも初心に帰らせてくれたのは帛紗だった。 いつだって楽しそうに動画やメンバーの話をする帛紗が教えてくれた。俺はこの仕事を通して、ひとに希望を与えたい。元気を与えたい。帛紗が何度でもそう思わせてくれた。 それをもっとちゃんと伝えるべきだ。 俺には帛紗が必要なんだ。 すっかり暗くなった道をそれからも歩き続けて、日がのぼってから数時間後のことだった。 これでダメなら家に帰ろうと、もう一度都心の駅に向かった。コンコースを抜けて見上げた先に探し求めていた姿があった。 ちょうど帛紗が改札を抜けて来るところだった。

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