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第23話 side棗

帛紗が無事に家に帰ってきてから、俺は毎日幸せでたまらなかった。 仕事に行く帛紗を見送るのが億劫でいっそやめてしまえばいいと何度も言いかけた。本当なら帛紗を閉じ込めて俺だけのものにしてしまいたいが、帛紗はものではないし、帛紗自身が望まないことを強要したくない。 それに俺も仕事の日は一緒に出勤できるし、帛紗は午後になればスタジオに遊びに来てくれる。それだけで頑張れるのだから、我慢しなくてはならない。 思いを伝えあってからというもの、帛紗の俺のことを一番近くで支えたいという意向から、帛紗はまたスタジオに通うことになった。伊万里と家事のノウハウを教えあったり、唐津について相談に乗ったり、仲良さそうに過ごしている。 帛紗が来るようになってからは撮影方法も見直して、日常でカメラを回すのはやめにした。 主な理由は動画内容の路線変更のためだが、唐津の意見でもあった。 日常風景の動画投稿は、メンバーに親しんでもらうため、そして編集技術の習得と新しい編集機能を実験的に使うために行っていた。 今のメンバーになってから数年経ち、技術もある程度確立できたので、てこ入れを兼ねて思いきってやめることにしたのだ。 おかげで可愛い帛紗を視聴者に見られる心配も無くなったのだが、それでも帛紗に関する悩みは尽きない。 目下の悩みはあれ以来帛紗と身体を重ねられていないことだ。 キスもハグもしているし、毎日のようにくっついて寝ている。帛紗をくすぐった時の反応が可愛くて、ふたりで居るときはずっと帛紗に触れている。 だが、その先となると話は別だ。 まだ思いを伝え会う前に、帛紗は織部が好きなんだと勘違いしたまま帛紗を抱いたあの日、またしてもいいと言ってくれた帛紗に俺はもうしないと言った。 帛紗の嫌な思い出を払拭出来るのは俺じゃないんだと勝手に傷付いて、帛紗が振り向いてくれるまでは絶対にしないと決めた。 それが、両思いだと知った今、改めてそういうことをしようと思うと、 緊張する!!!!! 甘い雰囲気になったとしても、そこから先、どう誘えばいいかなんて分からない。 よく声を掛けてくる女の子なら、こっちが何もしなくてもあからさまに体に触れてきたりとか、それらしい視線を寄越したりとか、とにかく鬱陶しいほどだが、帛紗がそんなことするわけない! あの可憐で可愛い帛紗が、俺の手で乱れて、浮かされてようやくねだってくれるような清楚系の帛紗が、そうしてくれたら嬉しすぎて卒倒するだろうけど!! とにかく、俺がリードしなきゃいけないことは分かっているが、実際、帛紗が今もそういった行為を望んでくれているのかも不明だ。 もんもんと帛紗への欲求だけを募らせつつ、愚直で卑猥なこんな気持ちを帛紗にぶつけてしまわないようにと葛藤する。 帛紗を汚してしまうような気がして、自分で自分を慰めることもしていなかった。 とにかく今は、先に家に帰って夕飯を用意して待ってくれている帛紗の元へ帰る前に、頭をすっきりさせようとランニングウェアに着替えた。 疲れるまで走って、帛紗の作ってくれる美味い夕食を食べて、綺麗で可愛い帛紗の笑顔を眺める。そんで風呂に入って寝る。 騙し騙しでいつまで続くかは分からない。早急に覚悟を決めて、帛紗を幸せに乱したい。 不埒なことを考えながら、日に日に伸びていくランニングコースを走った。

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