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第8話
遥の針にかかったのは予想以上の大物だった。竿が激しくしなり、遥の身体が水面に持っていかれそうになる。
「そこの兄さん、遥を支えろ。早く!」
俺が怒鳴ると、桜木がぎょっとした顔をする。急いで遥の後ろに回り込み、その胴体を抱えようとする。
「後ろから抱き込んで一緒に竿を掴んで、上げろ。遥の力じゃ、リールが巻ききれない。イリーシャ、タモ寄越せ!」
「ラウル~、こいつ強い!」
「踏ん張れ、遥!手を離すんじゃないぞ!兄さん、一緒にリール巻いてやれ!」
遥が重さに耐えかねて、腕をぷるぷるさせている。桜木の腕にも血管が浮いているところを見ると、かなりの大物だ。二人とも手袋をさせておいて正解だった。
銀色の鱗が徐々に水面に近づいてくる。俺はタモ網にそいつを捕らえた。さすがに重い。
「お前も、しっかりしろ!小狼(シャオラァ)」
後ろからイリーシャがタモ網の柄を持って力いっぱい引き上げた。
「ありがと、イリーシャ」
甲板に打ち上げられたそいつを見ると、一メートルはゆうにある、ニジマスだった。
「でっか.....!!」
俺もこれだけの大きさのあるニジマスは初めて見た。
「遥、凄いな!......超大物だぞ。こんなデカいニジマス、俺も初めて見たぞ!」
俺が興奮気味に言うと、遥も顔を真っ赤に紅潮させて、はぁはぁ言いながら、それでも嬉しそうに笑った。
「ラウルのおかげだよ。すんごいシンドイけど、釣り、面白い!」
「だろう?!」
釣り上げた獲物を遥に持たせて、記念撮影をして、後は、イリーシャが血抜きをして生け簀に入れてくれた。
遥はさっそく戦利品を掲げた勇者の画像を隆人のモバイルに送ったらしい。
「さて、俺も頑張るか!」
そうして、俺と遥は、中天に日が差し掛かるまでに、結構な釣果をあげた。
「生け簀もいっぱいになったし、そろそろ引き上げるか!」
俺がそう言うと、遥は少し名残惜しそうな顔をしたが、次の一言に、また眼を輝かせた。
「昼は、ガーデンパーティーだな!」
「パーティー?」
「新鮮な食材が手に入ったんだ。イリーシャ、邑妹(ユイメイ)にバーベキュー-コンロを出して準備しといてって言ってくれ」
「了解。お姫様っ!」
「こら!」
イリーシャの軽口に、遥がこっそり桜木に耳打ちした。
『お姫様って言うより、女王様だよ...な』
聞こえてるぞ、こら。
俺達の船はほどなくして、無事に桟橋に着き、意気揚々と獲物を背負った遥に驚くやら困ったやらの隆人の表情が実に面白かった。
「下拵えはしておくから、二人とも着替えてきなさい」
ミハイルは半ば呆れたような顔をして、だがとても優しい眼で俺達に言った。そうして、傍らで半ば硬直している隆人に、諭すように呟いた。
「まだまだ少年ですね......彼らは」
俺は、桜木に遥を預け、急いで着替えて邑妹(ユイメイ)のところに走った。
「邑妹(ユイメイ)、俺も手伝う!」
「来ると思ったわ。じゃあ、そこにあるエプロンを着けて、ご自慢の釣果を捌いてちょうだい」
俺は邑妹(ユイメイ)の指示を受けて、魚を捌いて、切身にしたり、小さめな奴らを塩焼きにする準備をした。
「ラ.....いや、小蓮(シャオレン)は何でも出来るんだね!」
着替えて庭に降りてきた遥と隆人のビックリした顔とミハイルの呆れた顔を交互に見ながら、俺はにっこり笑って言った。
「さぁ、お席についてください。パーティーの始まりですよ!」
その日の昼食は最高に盛り上がり、俺も遥も満足だった。
後で、ミハイルがーエプロン姿も気に入ったーと言い出したのには困ったが....。
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