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第11話

 俺達が、階段を降りて向かったのは、この建物の中でも、一番古い造りの、いわゆる娯楽室だ。  重い、ロココ調のドアを開けると、ミーシャ達が、ビリヤード台の向こうで待っていた。 「凄い立派なバー-カウンターがある」  遥が部屋の奥にあるバーカウンターに眼を輝かせた。普段は滅多に使わないが、いつの間にか、色々な種類のリキュールやジュースが用意されていた。 「俺、バーテンダーをしてたことがあるんだ。凄いな、色んな酒が揃ってる.....何か作らせてもらってもいいか?」  弾んだ声で、興奮を押さえられない様子で、遥が俺達を見た。 「遥......」  隆人は口許を歪めて、窘めようとしたが、ミハイルがそれを制した。 「せっかくの機会だ、是非、腕前を拝見しよう。ニコライ、氷を......」  ドアの傍らに控えていたニコライが軽く頭を下げてキッチンに向かい、手早くサーバーに氷を満たしてきた。ライムとペパーミントの葉も添えて;...。 「さて、何を差し上げましょうか?ミスター」  キラキラと目を輝かせている遥に、ミハイルが小さく笑って言った。 「では、ドライ-マティーニを」 「私は、ジン-トニックを」 隆人も小さな溜め息をつきながら言った。 「かしこまりました」  おどけながらも、にっこり笑ってシェイカーを振る遥の手は実に優雅で美しい。細い指が、オリーブをひとつ、グラスに落とし、ミハイルに差し出した。隆人の前にグラスを置き、つぶらな瞳が俺を見た。 「小蓮(シャオレン)はなんにする?」  自慢じゃないが、俺はカクテルなんて洒落たものは殆んど飲んだことがない。ラム-コークぐらいがせいぜいだ。 「えっと.....俺は...」 「パピィにはミルクがいいんじゃないか?」  ミハイルの揶揄いに遥が小さく肩を竦めた。 「じゃあ、カルーア-ミルク?......あ、でも俺に任せて」  遥がふと何かを思い付いたらしく、ウィンクをして、シェイカーを楽しげに振り、ショートグラスに透明のカクテルを注いで俺の前に置いた。ミントの葉が一枚、涼やかに揺れている。 「何?」 「ギムレットだよ。ドライマティーニときたら、やっぱり相方はこれじゃなきゃ」  得意気な遥にミハイルがくすっ.......と笑った。 「遥は、チャンドラーが好きなのかね?」 「別にそれほど好きじゃないけど、貴方と小蓮(シャオレン)には似合ってる」 「なるほどな.....」  隆人が、くぃ....とグラスを口に運んで呟いた。 「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている価値はない......か」 「そうだよ」  遥が、ジン-ライムを口に運びながら微笑んだ。 「ミスターと小蓮(シャオレン)にぴったりだろ?」  ミハイルの頬が酔いのせいか、わずかに赤らんでいるように見えた。 「何かかけましょうか?」 ジュークボックスに凭れていたイリーシャが軽く口笛を吹いて言った。 「そうだな....」  ミハイルがはにかみながら、俺を見た。 「テイク-ファイブを......」 ーそうして、男達の他愛の無い夜は更けていった。ー

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