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第89話
帰宅するとすぐ白帆は風呂を焚き、湯を舟而の顔に掛けて笑い、泣いた顔を洗い流した。
白帆と湯を掛け合って遊ぶうちに、舟而の顔には僅かばかりだが笑顔が戻り、二人はいつも通りに互いの背中を流しあい、舟而は一足先に風呂を出る。
二組の布団を敷いて、そのままぼんやりと布団の上に座っていた舟而の背中に、湯上りの白帆のしっとりした体温が触れた。
「白帆?」
白帆は何も言わず、まだ湿っている舟而の髪に頬を擦りつける。
「甘ったれだな」
子供をおぶってあやすように、後ろへ手を回して白帆の背中を支えながら、ゆらゆらと前後に上体を揺らした。
「森多先生は、素晴らしい脚本家です」
「え?」
「会社の資料室で、森多先生のホンをずっと遡って読みました。舟而先生のお師匠さんに相応しい、素晴らしいホンでした。この世の地獄を笑い飛ばして見せる、素晴らしいホンでした」
「うん」
「しゅうじ、という名前の書生が出てくるお話がありました。よくもてて、その家の主人が用を言いつけようとしても、いつも女の人に呼び出されて家の中にいなくて、主人は文句を言っているんです。でもその書生が小説が書けなくなったとき、顔を覆って泣いている書生の隣に座って、その背中を撫でながら助言をするんです。『だったら脚本を書いてみないか』って」
「うん……」
「先生を救って、育ててくださった、素晴らしい先生です」
「うん、うん」
「どうぞ森多先生のお弟子さんでいらっしゃることを、誇りに思ってくださいまし。森多先生のいいところは、全部舟而先生に受け継がれてます。私は、森多先生も、舟而先生も、心からご尊敬申し上げております」
「ありがとう。ありがとう、白帆……」
「お礼なんて。どうぞまたいいホンを書いて下さいまし。苦しさを吹き飛ばすホンを書いて、私に演じさせてくださいまし」
白帆は舟而の頬に自分の頬を押し付け、それから自分の唇を押し付けた。
舟而は振り返って、白帆を自分の胸にしっかりと抱き締めた。
「僕はこの先、何回、こうやってお前さんに助けられていくんだろうな」
「何度でも。何度でもでございますよ、先生。二人で一緒におじいさんになって、閻魔様のところへ伺うまで、何度でもでございます。私のことだって先生はいつも助けて下さるんですから、お互い様です。一緒に助け合って参りましょう」
「ああ。一緒に。いいな、お前さんと一緒におじいさんになるなんて、とても楽しみだ」
舟而はゆっくりと白帆を布団に押し倒した。白帆は胸に舟而を抱いて微笑む。
「おじいさんになったら、互いの手や腕を杖代わりにして、一緒にお散歩をしましょう。物忘れをしたら、覚えている方が教えてあげて、一緒に忘れてしまったら笑ってそれぎりにしちまいましょう」
白帆の真珠色の肌へ唇を滑らせながら、舟而も笑う。
「お前さんがものを食べて、口の端にくっつけたら、僕がつまんで食べてあげるよ」
寝間着をはだけて露わになった胸の粒を、舟而は指先でつまみ、口に含んだ。
「ンっ、は、ああっ! 今と変わりませんね。ふふっ」
舟而は母親の乳房をねだる子どものように、しばらく白帆の胸を吸いながら、その腕に抱かれていた。
白帆の細い指が舟而の髪を優しく梳いて、舟而もまた手をのばして白帆の黒髪を梳く。熱を帯びた視線が絡んで、互いの身体に熱が灯った。
白帆の腹に舌を這わせ、そのまま布を取り去りながら下って行って、薄墨色にけぶる場所へ顔を埋め、白帆の形を口に含む。
「ああ、先生っ!」
ぬめる口内で翻弄されて、白帆は小さく腰を震わせる。さらに舟而は自分の指に香油をとって、奥の蕾も同時に探り始めた。
「はあんっ、そんなに、そんなになさったら……。いけません、そこ、ダメえっ!」
制止するのと同時に、もう白帆は舟而の口の中へ放ってしまって、真っ赤に染めた顔を両手で覆う。
「はあっ、はあっ、す、すみません。私ったら」
「そうやって恥じらうから、悪戯したくなるんだ」
「先生、子供みたいですよ」
「男なんて、死ぬまで子供だよ」
「ふふっ、さよですね。……んっ」
「やんちゃだしな」
くすくす笑いながら猛るものを蕾に押し付けると、白帆も笑った。
「もう、先生ったら! ああ、焦らさないでくださいまし。奥まで、もっと奥まで……っ」
香油の助けを借りて根元まで収めると、白帆は頬を薔薇色に染めて微笑んだ。
「先生と一蓮托生です」
舟而は頷き、微笑み返しながら、丁寧に白帆の内壁を擦る。眉根を寄せて耐える白帆の姿を飽くことなく眺めた。
白帆の身体が高まるにつれ、舟而の身体も高まって、ずり上がる白帆の身体をぐっと引き戻して抱き締めると、舟而は咆哮しながら思いの丈を白帆の中へ解き放った。
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