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恋_5

そう指差したのは思いの外イケメンな学生だった。 身長は篠原より少し低いぐらいで、男らしい肉付きをしている。無造作な黒髪も艶があって綺麗だ。 ふーん、もっとヤバそうな奴かと思ったけど普通にイケメン。 「別に普通そうじゃん。運命の相手なら付き合っちゃえば?」 「浅井、無責任なこと言うなよ」 あーあ、怒るのは本人じゃなくて篠原なんだもんな。 「はいはい、っと」 水野を背中で隠すようにして篠原は前を歩いていく。 好きな人がいる人を好きになる、辛くて苦しいなんて最初から分かってた。それでも諦めきれないと思ったから、好きになる覚悟をした。 1パーセントでも可能性があるのなら、その奇跡を信じて絶対に諦めないと決めた。 元々諦めの悪い性格なんだ。ちょっとやそっとじゃ、諦めてやるもんかって。 だけど時々、俺が努力をしても手に出来ない距離を無条件で与えられるのを見ると、心臓が止まりそうになることがある。 ………例え止まっても、好きだけど。 篠原の、ばーか。 俺達に気付いたイケメン学生は足早に近付いてきて、篠原の背中を覗き込むようにしながら水野に声を掛ける。 「………どーも」 「あ、う……えっと……」 「怖がらせるつもりじゃなかった。ごめんね」 このイケメン………完全に俺達の存在無視してる……。 「お前、朝から智に付き纏ってんだって?」 「智………?ああ、智って言うんだ。宜しく、俺は字見(あざみ)」 字見は篠原には全く興味を示さない。 声を掛けられた水野は小さく「智じゃなくて智也……」と主張した。 「智也ね」 「なあ、こうして怖がってるしあんまり智に近付かないでくれるか?」 そこでようやく字見は篠原と目を合わせる。 「……アンタ、何?何でそんな事言われなきゃなんないの?」

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