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恋_9
不貞腐れた浅井は頬を膨らませたまま、歩き出した俺の後ろを付いてくる。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……はぁ、分かった分かった。送ってやるから」
「本当!?やったー!」
閑静な住宅街に響いた喜びの声。
「煩い、近所迷惑だろ」
「はぁーい!」
目に見えて直った機嫌に、俺も釣られて笑いが込み上げてくる。
「ふっ、はは、単純な奴」
「単純じゃないしー、だって嬉しいだもん」
「そんなに?」
「そんなに!」
後ろを歩いていた浅井は駆け足で寄ってくると隣に並んで歩き出す。
俺達の距離感はいつもこれだ。
好きだ何だと遠慮無しに言うくせに、スキンシップは一定の距離感を保っている事に気が付いたのは最近のことだ。
「篠原が俺のお願い聞いてくれたってだけで幸せで倒れそう」
「大袈裟」
「んなことないし。まあ、見守る愛とか言ってる篠原には分かんないかもね」
肩を竦めた浅井を横目で捕えながら、俺は足を進めていく。
見守る愛、か。
嫌われたくないと怯える気持ちを綺麗に形容するならそうなるのか。
騒がしい浅井を何だかんだと傍に置いてしまうのは、コイツの真っ直ぐさが羨ましいからなのかもしれない。
「………マジで一生言わないの?」
「………………」
「後悔するよ、絶対」
「何だよ、応援してくれんの?」
「しない」
「しないのかよ」
「しないけど、篠原が悲しそうにしてんのも嫌だ」
ちょっと騒がしくて羞恥心に欠けるけど、それでもコイツは良い奴だと思う。
「……お前さ本当俺なんて止めとけよ。もっと居るよ、お前に合う良い人」
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