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恋_16
「痛っ〜〜ぁ!」
「わっ、浅井くん大丈夫?」
慌てた様子で駆け寄ってきた水野に支えれながら、ぶつかった先を見る。
「げっ………」
思わず声を上げてしまったのは眉間にシワを寄せたいかにも柄の悪そうな男が数人、俺を見下ろしていたから。
「おい、何だその反応はよ?ぶつかってきたんだから謝罪が先だろーが、あぁ?」
「………ごめんなさい」
「聞こえねーよ!」
「すみませんでした」
「はぁ?聞こえねぇっつってんだよ!」
怒鳴り散らす男と、周りの仲間はニヤニヤと笑う。
うーわ、面倒臭い。
水野に至っては怯えきって俺の後ろに隠れてるし。
「す・み・ま・せ・ん・で・し・た!」
「ナメてんのか、てめぇ。何だその態度は!?」
「聞こえないって言われたから難聴でも聞こえるように、ハッキリ言っただけだけど?」
「てめぇ…」
掴みかかってこようとした男は俺の後ろで「危ないよ」と情けない声を出した水野に視線を流して、いやらしくニヤリと笑った。
「へえ…上等なΩ連れてんじゃん」
「ひっ………こ、怖………」
「そうだな、コイツで遊ばせてくれんなら、ぶつかってきたことチャラにしてやるよ」
あー、本当に面倒臭い。
怯え上がる水野へ伸ばされようとした男の手を振り払って、代わりに水野の腕を掴んで全速力でその場から走った。
「――おい待ちやがれ!」
「ふん、誰が待つかバーカ!」
後押しで舌を出して挑発してやる。
「ま、待って浅井くん、足縺れる……!」
「頑張れっての!」
転びそうになる水野を力いっぱい引っ張って、息も切れ切れに男達の姿が完全に見えなくなるまで走りきった。
「はぁ……はぁ……無理……もう息、できな……」
「はーぁ、マジ最悪」
「もう浅井くん怖いもの知らずなんだから」
「置いてけぼりにしなかっただけ良いだろ」
そういう問題じゃないよと、その場にへたり込んだ水野を一瞥する。
ΩらしいΩ。俺とは全然違う。
「………なあ、よく絡まれたりすんの?」
「まあ、僕こんなだから。浅井くんはないの?」
「ない。俺どっちかと言えばβっぽいし、Ωって言ってもなかなか信じてもらえないし」
「いいなぁ…羨ましい」
確かにΩは生きにくい。
水野みたいにΩらしいΩなら尚更。
でも俺は………。
「………気を付けろよな」
「うん、浅井くん優しいよね」
「お前になんかあると篠原にも迷惑だろ」
「ふふ、そっか。そうだね」
どうせΩなら、水野みたいなΩに生まれたかった。
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