22 / 139

恋_22

side α 「あ!篠原、次俺達の番」 浅井の声にガイドブックから目を上げると巨大迷路の入口が目前に迫っていた。 「絶対ゴールする!」 「…だな」 意気込む浅井は両の手を握り締めて、目を輝かせてる。 子供っぽいよな、結構。 過ごしてきた年月の割に知らない事が多い。 いや知ろうとしなかったのか、俺が。 浅井と過ごした高校時代、いつも一緒に居たのはコイツが俺を追い掛けてきていたからだ。 俺が浅井に向き合ったことは、多分一度もない。 現にこうして出掛けるのだって初めての事だ。 「浅井、楽しいか?」 「うん、めちゃくちゃ楽しい!最高の一日!」 こんなに喜ぶなんて思ってなかった。 らしくない服なんか着て、ガイドブックなんか読み込んで。 全身で俺を楽しませようとしてるのが伝わってきて。 俺も楽しい。 浅井の傍は居心地がいい。 気遣う必要はなくて、素の自分で居られる。 でもそれは同時に、浅井をそういう目で見られないって事だ。 「………最低だな」 「え?」 「いや、何でもない」 最低だ。 応えてもらえない苦しさを分かっていながら、突き離せない。 だってそうだ。 俺は、拒絶されるかもしれない怖さも知っているから。 「はぐれて迷子になっても探さないからな」 「え!?篠原冷たい!やだやだ!探してよ!」 「やーだね」 「絶っ対はぐれない!置いてったら大声で泣きながら篠原のフルネーム叫ぶ」 「やめろ、何の羞恥プレイだよ」 好きになれたら良かった。 応えてやれたら良かった。 「更に愛の告白も付ける」 「絶対やめろ」 ――愛してやれたら、良かったのに。

ともだちにシェアしよう!