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恋_24

迷路に入って15分は経った。そろそろ階段に辿り着いてもいい頃合いのはずだ。 浅井は考える事を早々に諦めて、俺の後ろをついて歩くことに決めたらしい。 「篠原、迷ってない?」 「そろそろ階段が見えてもいいはずだ。大体中央付近にはいると思うから」 「俺なんて自分が今どの辺にいるのか全然分かってない。二回曲がった辺りから諦めた」 「いや早すぎだろ」 「だってさぁ――んぐっ」 背中に受ける衝撃と間抜けな浅井の声の原因は、前を歩いていた俺が急に立ち止まったからだ。 「もう!今日顔打つの二回目なんですけど!?何、急に立ち止まって」 「ああ、悪い。あれ」 と俺が指す先を追って、浅井は前方を覗き込む。 そこには小さく(うずくま)る人影があった。 「ぅわっ!?ゆ、ゆゆゆ幽霊……?」 「馬鹿、足付いてるだろ。一人みたいだし、迷子かもな」 「迷子かぁ…………――って篠原、何向かって行ってんの?」 「泣いてるかもしれないだろ」 幸いそれらしき声は聴こえないけど、蹲る人影はピクリともしない。 もしかしたら体調が悪いのかもしれないし、放っておくのは寝覚めが悪い。 それにあの子………。 蹲っている人影はとても小柄な青年で、近付いた俺達の足音にも彼は気付かない。 「――何してんの?もしかして迷子になって泣いてる?」 出来る限り驚かせないよう、トーンを抑え気味に声を掛けた。 「あー!篠原、俺には優しくしてくれないくせに知らない子には優しくすんだ?ズルい!」 「浅井、うるさい。おーい、聞いてる?」 そのやり取りに漸く青年の顔が膝から上がって、その視線が俺達を捕らえた。 顔が上を向いたことで、身体の華奢さがよく分かる。 どことなく智を思わせる雰囲気。 やっぱこの子、Ωだ。 「あ、良かった。泣いてなかった」 警戒心を持たれないよう、なるべくゆっくりとした動作で手を差し出した。 「大丈夫?立てる?」 「ズルい……俺も篠原に優しくされたい」 「だからうるさいって」 対して浅井は面白くないと頬を膨らませてそれを表現する。 「えっと、大丈夫です。すみません、ちょっと人とはぐれてしまって…」 「やっぱり迷子?俺らと一緒に出口探す?」

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