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恋_25
その提案に俺の隣からは盛大なブーイングが起こる。
分かってはいたけど。
「今日デートなのに!」
「浅井マジでうるさいし、別にデートじゃねーだろ」
「二人で出掛ける、それ即ちデート!」
「はいはい、一人で言ってろ。てか……」
ふんぞり返る浅井から再び青年に視線を戻すと、その口元から血が出ていることに気が付いた。
「血、出てるけど……」
思わず手を伸ばして流れ出ていた血を拭ってしまった。
「あ…すみません、ありがとうございま――う、ぇっ!?」
「あ………?」
恥ずかしげに述べられた礼は途中で途切れ、俺と青年は視線を合わせたまま瞠目する。
青年の身体が急に後方へと傾いていったから。
バランスを崩して倒れていくと思った身体は、突如現れた長身の男が受け止め、鋭い眼光が俺に向けられた。
走って来たのか男の息遣いは荒くて、腕の中に捕らわれた青年は驚いた表情をする。
「は、長谷 さ――わっ、え、なに…!?」
男は何も言わないまま、青年の手を引いて来た道を戻っていく。
「えぇー………怖っ………」
物凄い気魄……何かマズかったかな。
青年は手を引かれながらも頭だけ振り返り、小さな会釈を残して姿を消していった。
「何だったんだ、一体……」
「………あ!あの人…」
何か思い出した浅井の口振りに知り合いかと問えば、それは違うと言う。
「さっきチケット買う時騒がれてたイケメンの一人だ。モデルか何かの撮影かと思ったけど、プライベートだったんだ」
「みたいだな。何か恨み買っちゃったみたいだけど」
肩を竦めた横で、浅井は冷ややかな眼差しを向けてくる。
「な、何だよ?」
「別にーぃ。篠原ってああ言うタイプに弱いよなって思っただけ」
「ああ言うタイプって……」
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