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恋_26
短く息を吐き出して浅井は先を歩き始めた。
「おい……」
「………小さくて可愛くて守ってあげたくなるのが好きだもんな、篠原は」
「そ、そんなんじゃ……」
「どうせさっきも水野に似てるって思ってたんだ」
「それは………」
図星をつかれて返す言葉もない。
「……篠原にはデートじゃないかもだけど、俺にとってはデートだもん」
「……………」
「今日ぐらい独り占めさせてくれたって良いじゃん」
いつものように頬を膨らませて不貞腐れるのだと思ったのに、浅井に差したのは悲しい表情で………俺は咄嗟に浅井の手を掴んだ。
「――え……」
「………悪かった。もう考えないから、だから泣きそうな顔するなよ」
「……泣かないし、こんなんじゃ。てか手離して」
引いていこうとした手を離さず、握り直せば浅井は目に見えて頬を赤く染めた。
「………出口までなら人目もないし、デートなら手ぐらい…」
その先を言い淀んでしまうのは、罪悪感から出た提案だからかもしれない。
それでも傷つけた分、喜ばせたくて俺なりに思っての行動だったのに…。
「……嫌だ」
返ってきたのは拒絶の言葉。
「でも……」
「そういうの一番傷付く。同情だって見え見えなのに、もしかしたらって振り回されんの一番しんどい」
ああ、俺コイツのこと傷付けてばっかだ。
それなのに、どうしてコイツは……。
「………ごめん。軽率だった」
「いい。篠原なりに俺のこと考えてくれたのは嬉しいから」
「さっき考えないって言ったのは本音。今日はもうお前と楽しむことだけ考えるから」
掴んでいた手を離したら、浅井はいつものように笑って「やった!」と大袈裟なまでのリアクションをする。
「じゃあさ、じゃあさ!迷路出たらお土産コーナーで思い出の品買ってくれる?」
「……それ最初から買わせる気だったんじゃないのか?」
「嫌嫌買うのと快く買ってもらえるのじゃ価値が違うの、価値が」
「はいはい。何でも好きなもの買ってやるよ」
「やったー!よーし、こうなったらさっさと出よう!………で、俺適当に歩いちゃったけど、こっちで合ってる?」
「…俺も何処だか分からなくなったわ……」
「……マジ?」
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