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恋_29
浅井が頼んだ何ちゃらスペシャルクレープは見ているだけで胸焼けしそうだ。
「ふふん、めちゃ美味しい!」
「そりゃ良かったな」
「篠原は紅茶だけで良かったの?」
「お前の見てるだけでお腹いっぱいだよ」
勿体ないと眉尻を下げたと思ったら、次の瞬間にはクレープを口にして満面の笑みを浮かべる。
浅井はいつも笑ってる。
俺がどんなに振ったって、笑ってまた告白してくる。
さっき見せられた泣きそうな顔が脳裏に過ぎって、言いようの無い胸の痛みを感じた。
「…………笑顔 のがいいよな」
「え?こっち?紅茶とクレープじゃ全然別もんだよ?」
「何でもねーよ。口、チョコ付いてるぞ」
「え、嘘」
口に端についたチョコを舐め取ろうと健闘する浅井を横目に、俺は胸の痛みを誤魔化すよう息を吐き出した。
傷つけたいわけじゃない。
嫌いなわけでもない。
ただ、恋愛対象じゃないだけ。
「ご馳走さま!美味しかった」
「………おう、良かったな」
俺が思案に耽けている間にペロリとクレープを平らげたらしい。
浅井は満足そうに笑うと座っていたベンチから立ち上がり、俺の前に立つ。
「今日めちゃくちゃ楽しかった!デートしてくれてありがとう」
「いやデートじゃ……」
「俺ね、やっぱ篠原が好き。今日もずっとドキドキしてた。俺の世界では篠原だけがキラキラしてるんだ」
真っ直ぐな言葉だ。目を逸らしたくなるぐらい。
「と言う事で、俺と付き合って下さい!」
下げられた頭と差し出された手。
何度か目の当たりにした光景だが、しっかりと視界に映したのは初めてかもしれない。
いつも視線を逸してばかりだった……。
だから差し出された手が震えていた事を、今初めて知ったんだ。
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