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恋_30

急に脆く儚く見えたそれを掴もうとして慌てて立ち上がったけれど、伸ばし掛けた手を途中で止めた。 ダメだ。 今掴んだってまた悲しい顔させるだけだ。 応えてやることも出来ないくせに。 俺じゃダメだ……。 「…………ごめん」 「……あーあ、玉砕六十九回目!くそぉ……」 その場にしゃがみ込んだ浅井は膝に顔を埋めながら、いつもの調子で悔しがる。 けど、俺には掛ける言葉が見つからない。 顔は上がらないまま、浅井は言葉を続けた。 「……俺は酷く傷心してる」 「……うん、ごめん」 「ガチトーンだとマジへこむ」 「うっ………ごめん」 声はいつもの調子だけど表情が分からないから気持ちが焦る。 泣いてたり、しないよな…? 「……なあ浅井、顔上げ――」 「へこんだから慰めて」 「え、ああ……良いけど俺に出来る事なんて……」 そもそもへこませた本人が慰めるってどうなんだ? 「――……ってほしい……」 「え……?」 急激に落ちた声量に耳が追いつかず、聞こえるように俺も同じくその場にしゃがみ込んだ。 「何、もう一回言って?」 「――………おめでとうって、誕生日おめでとうって言ってほしい」 …………誕生日。 「………はぁ!?え、何、浅井今日誕生日なの?」 「うん………」 「おまっ……そう言う事は早く言えよ」 誕生日なんて四年も側にいて初めて知った。 なんでコイツは………いや違うな。 俺だ。俺が知ろうとしなかっただけだ。 俺が興味を持たなかったからだ。 「…………おめでとう、誕生日。あと知らなくてごめんな」

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