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恋_32

言い淀む俺を見て、固まっていた浅井はムッと口を尖らせる。 「…………何」 「……目を、背けるのはやめようと思う。ちゃんとお前と向き合う。それが恋愛感情に繋がるかは分からないけど……それでも俺は浅井のことをもっと知りたい。今、俺がお前にしてやれる事ってこのぐらいしかない」 「……………」 「気持ちに応えてやれなくてごめん。浅井にとっては半端な答えだと思うけど、これが今の正直な気持ち。六十九回目の告白の返事」 瞠目したそこに映る感情は何色なのか俺には分からない。 「本当にごめんな。突き放してやれる強さもなくてごめん。怒ってもいい、軽蔑してもいいから。だから――……え、」 今度は俺が瞠目して固まる。 見開かれた浅井の目から一滴の涙が零れ落ちたから。 「え、ご、ごめん!そんな泣かせたかった訳じゃ…いや勝手な事言ってるのは俺なんだけど……とにかくごめん!俺の言った事なんて気にしなくていい、忘れていいから、だから泣かないでくれ……な?」 声を掛ければ涙は止まるどころかボロボロと落ち始める。 「わっ、ちょっ、浅井、ごめんって…」 「うっ……うぅ…がう……違う…篠原の馬鹿……っ…」 「ごめん、馬鹿でいいから……頼む、泣き止んでくれよ」 「う…っ……違うってば……嬉しいんだもん……嬉しくて泣いてるんだって……」 手の甲で目元を擦りながら浅井は言う。 「……けど俺がお前を好きになる保証なんてないんだぞ?向き合ったとしても、本当に一生……」 飲み込んだ言葉にも浅井は「嬉しい」と返す。 「いいもん……っ…それでも……それでも嬉しいんだもん……。嬉しいもんは嬉しいんだもん……っ…篠原が水野の事好きでも、それでも嬉しい………」 「……………」 壊れたように嬉しいしか口にしない。 「…嬉しい……幸せ……俺、やっぱ篠原が好き」 「……………」 「俺、もっともっと頑張るから。篠原に好きになってもらえるように絶対諦めないから」 涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃな顔のまま、浅井は笑った。 手は伸ばせなかった。 それでも俺は綺麗なその笑顔に触れてみたいと……そう思ったんだ。

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