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運命_8

瞠目した篠原を見て、慌てて手を離す。 間違った。今のはダメな距離感だった。 「は、ははは、なーんてね!ちょっと可愛子振ってみましたー!ど?可愛かった?好きになっちゃう?」 「…………浅井ってさ」 いつもなら「なるわけねーだろ」とか「馬鹿」とかそんな言葉が返ってくるはずだった。それなのに、俺を見る篠原は真剣な眼差しをしている。 「誤魔化す時の笑い方ぎこちないよな」 「……えー、そう?そんな事ないと思――」 「――分かるよ。最近ちゃんとお前の事見てるし。まだ全部じゃないけど、それでも分かる事もちゃんと増えてる」 あ、まただ……。 目を逸したくなる……。 折角篠原が俺の事見てくれてるのに、何でだろう…。 「怒ってもいないし困ってもいない。だから誤魔化さなくていいよ」 「……………嘘だ」 「嘘じゃないって」 「だって………驚いた顔したじゃん……」 「それは………」 ばつが悪そうに篠原は頬を掻く。 ほら、困ってるじゃんか……。 「………あー、本当に驚いただけ。俺も同じ事思ったから」 「え…………」 「あんまりこういう事言うの良くないって分かってるけど……そんな下手くそな笑顔で誤魔化される方が見てて辛いし」 「それって、篠原も寂しいって思ってくれたってこと……?」 「まあ、あんだけ毎日一緒に居りゃ多少は思うだろ、普通。それに……いや、それはいいか」 何か言いかけたようだけど、今の俺にはそんな事どうでもいい。 だって、だって……篠原が少しでも同じ気持ちになってくれたんだって思ったら頭が沸騰しそうになる。 顔だってジワジワ熱くなるし、変な汗だって出てくるし……何より何か泣きそうだし……。 「う、嬉しい……っ!ありがとう」 「……ん。まあ、俺にはそんな事言う権利ないんだけどさ」 ごめんな、と謝る篠原に俺は大きく首を振った。 「嬉しいっ!」 「……そっか。明日は一緒に帰ろうな」 「――うん!絶対!絶対帰る!」 「じゃ、気を付けて帰れよ」 去って行く背中に「好き」って言いたかったのに、言葉が震える喉に支えて声にならなかった。

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