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運命_19
息が苦しくてぎゅっと目を閉じ、顔を伏せた。
だって本当は俺の事好きになればいいのにって言いたい。
「浅井のこと好きになれって言ったり、智のこと諦めんなって言ったり……どっちなんだよ」
呆れて笑う声がする。
「俺は、もっとちゃんと篠原に好きになってもらいたいから……こんな、こんな風じゃなくて……だから今は、いい…っ……」
篠原からはまた「馬鹿だな」と言葉が返ってくる。
自分でもその通りだと思う。
掴んでいた手を握り返されて、あまりにも力が強いから閉じていた目を開いてソッと篠原を盗み見た。
「お前って本当良くも悪くも真っ直ぐだよな」
褒め、られてんのかな……?
「そういう所いいなって思うよ、素直にさ。俺には出来ないから」
「それは………」
……篠原が好きだから。全部、全部篠原が好きだから。好きなだけ、ただそれだけ。
「なあ、顔見せて」
「や、嫌だ……今絶対酷い顔してる……」
涙とか鼻水とかでグチャグチャだ、絶対。
「大丈夫だから、な?」
そう言うから顔を上げたのに、案の定酷い顔だって篠原は笑った。
「だ、だから嫌だって言ったのに……!」
「ふっ、はは、ごめんって。でも元気出た、ありがとな」
膨れっ面を作ってみせたけど、内心はほっと胸を撫で下ろしていた。
この笑顔は、大好きなやつだ…。大好きな篠原の笑顔だ。
「帰るか」
「うん……!」
立ち上がった篠原に続いて、俺もその場に腰を上げた。手は変わらず繋がったままで、離してくれる気配もない。
「し、篠原…手離してほし――」
「――あのさ、俺が言えた義理じゃないだろうけど……気ぃ許してないαとあんまり二人きりになるなよ?」
「ぇ…………」
「お前だってちゃんとΩなんだ。自分の事蔑 ろにするなよ?」
「……う、ん…………」
「ん、よし。じゃあ今日は浅井の好きな駅前のクレープ奢ってやるよ。特別な」
ようやく繋がっていた手が離れて、篠原の背は先を歩く。
掴まれていた右手は温もりを失っても尚、じわじわと熱を帯びていた。
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