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運命_21
隣を歩く浅井はキョロキョロと忙しなく辺りを見回している。
「水野の家と近いんだ?」
「まあな」
興奮気味に弾む隣の足取りは、さながら遠足に向かう小学生みたいだな。
まさか家に来たいだなんて言われると思わなかった。
どうするべきかと悩み口を閉ざした俺に、慌てたように「冗談」と言った浅井はぎこちなく笑った。
誤魔化す時のこの笑い方が、心地良いものじゃないことも最近知った。
だからつい条件反射で浅井の提案に「いいよ」と口が滑り、次の瞬間には輝いた目に後には引けなくなってしまった。
「妹帰ってると思うし、うるさいけど大丈夫か?」
「うん!篠原の妹さん見てみたかったし!」
まあ楽しそうだからいいか、と浅井を連れ立って帰路についた。
「ここ?」
「そ」
「なんか温かそうな雰囲気の家」
「そうか?ごく一般的な家だと思うけど…」
浅井が見上げた自宅は良くも悪くも軒並みな一軒家だ。
「どーぞ」
「お邪魔します」
鍵を回して開いたドアへ浅井を招き入れる。
緊張した面持ちで沓摺を越えた浅井は、肩にも力が入っているように見えた。
「ふっ、はは、そんな緊張しなくていいって」
「だ、だって……」
言いかけた浅井の言葉を遮るように聞こえてきた大きな足音。
「みぃ兄ちゃんお帰りなさい!」
リビングから駆け出して来たのは天真爛漫な我が妹。
「ん、ただいま」
勢いそのままにまだ小さな身体を抱えあげてやれば、きゃっきゃと嬉しそうな声を出して喜ぶ姿が微笑ましい。
俺達兄妹にとっては日常のやり取りだが、浅井には新鮮らしく目を丸くして立ち尽くしていた。
「ほら千歌 、挨拶は?」
「こんにちは!」
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