62 / 139
変化_3
懇願する俺に篠原はニヤリと意地悪く笑む。
「いつも見下ろす側だから、たまには見上げるのもいいな。見下ろす気分はどうだ?」
「………つ、」
「つ?」
「旋毛 まで格好いい……」
「ぶれないね、お前も。ほら」
地面に足がついた刹那、俺は駆け出したはずなのに景色が全然前に進まない。
「こーら、どこ行くんだ?」
「はな、離して……帰る……!」
前に進めないのは首根っこを掴む篠原の手のせいだ。
「帰るって来たばっかだろ」
「た、体調不良!」
「体調不良の奴はそんな元気に走れませーん。ほら行くぞ、講義始まる」
無情にも俺の身体は構内へと引きずられて行く。
謝らなきゃ、突き飛ばしたこと……。そう思うのに言葉が喉に支えて出てこない。
「………ごめんな、金曜日」
「ぇ………」
「ちょっと意地悪しすぎた、ごめん」
先に謝罪の言葉を口にしたのは篠原で、呆けている間に首根っこを掴んでいた手が離れた。その代わりそれは優しく俺の頭に乗る。
「ごめん」
「あ……いや俺の方こそ突き飛ばしちゃったし……ごめん……」
「ん、じゃあおあいこって事で。千歌がな、また一緒に遊びたいって言ってて、だからまた家 に遊びに来てくれるか?」
「…………うん」
「じゃあこれで仲直りな」
ポンポン、と頭の上で二、三回跳ねた手はそのまま退けられて少し寂しいと感じる。
もっと撫でられたかったな……。
「あとさ、」
「?」
「今度は浅井の家にも行ってみたい」
「え…………えぇ!?」
「何だよ、だめだったか?」
「だめじゃない、けど………」
やっぱり、いや絶対、篠原変………。
ともだちにシェアしよう!