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変化_4
「お、俺一人暮らしだし、家何もないよ……?」
「うん、いいよ」
「でも本当に何もなくて全然楽しくないと思うんだけど…」
「いいんだって。浅井がどんな所に住んでんのか見てみたいだけだから」
笑う顔は優しい。
その顔を見ると嬉しくなる。
それなのに、嬉しいはずなのに、胸が苦しいのはどうしてだろう…。
「ほら、早く行かないと講義始まる」
先を行く背中を追い掛ける一歩が踏み出せない。
「あ、のさ………!篠原は、やっぱりまだ………」
「ん?」
「まだ…………」
まだ――水野が好き……?って訊きたいのに、訊けない。
振り向いた目を見たら尚更。
訊いてしまったら傷付けるかもしれないと思うとどうしても次の言葉が出てこない。
「どうした?」
「……………ううん、いいや」
「………………」
それなら訊かない方が見て見ぬふりをした方がよっぽどいいんだ、きっと。
先に居た篠原を追い越したら、今度は篠原が俺を呼び止めた。
「じゃあ俺が訊いていい?」
「?……何を?」
振り返ったら思いの外篠原との距離が近くて、首を少し上に向けないと目が合わせられない。
「――浅井はどうして俺が好きなんだ?」
唐突に振ってきた言葉は意味を理解するまでに数秒の時間を要した。
「え…………」
「俺、お前に全然優しくないし、好きになれるか分かんないとか最低なこと言うし、何なら傷付けてばっかだ。αだけど別に上級ってわけでも、ましてや運命の番でもない………。正直、良い所なんて一つもないだろう?」
「………………」
「それなのに浅井はずっと俺を好きだって言ってくれる。俺の何が、そんなにいいんだ……?」
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