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変化_6
その顔はまるで無邪気に笑う子供のようで……篠原でもそんな表情するんだって初めて知った。
「それから言おうか悩んでたんだけど……浅井が恥らってる顔を見ると可愛いって思うんだ」
「へ……か、かわっ………え?」
「浅井を知るほど俺の事で一喜一憂する姿が可愛いなって思う事が増えた。浅井に比べたら全然足りないけど、ちゃんとお前の事………少しずつだけど好きになってる」
ああ、嬉しいなぁ。
だってずっと聞きたかった、欲しかった言葉だ。
本当なら死んだっていいって思えるぐらい嬉しい言葉だ。
でも…………これは、多分違う。違うんだ、これは。
「――それ、違うと思うな」
「?」
「篠原はさ、きっと今寂しいんだと思う。だってそうじゃん?ずーっと水野が好きで、ずっとずっと大切にしてきて、そんな相手に別の好きな人が出来たんだからさ、寂しいに決まってる。寂しくない訳がない」
篠原の様子がおかしかったのは、きっとそのせい。
「だからその寂しさを埋めようとして、俺の事好きかもなんて勘違いしてんだよ。ほらまだあれから日も浅いし、もっと落ち着いてからゆっくり考えた方がいいって」
「違っ――」
「――俺も!俺も……そう言うので舞い上がって傷付きたくないし。水野の代わりなんだって感じたら、何かさすがに立ち直れそうにないし」
「そんな事思ってない!俺はちゃんと浅井を見て……」
「でも寂しいのは事実、だろ?」
「それは!……ないとは言えないけど………」
ゆっくりと下ろされた篠原の右手が力強くて握り締められているのが視界の端に映り込む。
紡ぐ言葉を失った篠原の唇は噛み締められて、血が出てしまうんじゃないかと思った。
「もっとゆっくりでいいと思うんだ。無理に埋めようとしなくていいと思う。元々長期戦覚悟だし。この前も言ったけどさ、篠原の気持ちの整理がついてから、ちゃんと好きになってもらいたい」
「俺は………っ。……………分かったよ。もっと自信を持って言えるようになるまで、好きだなんて簡単に言わない……。その代わり――」
一度言葉を切った篠原は俺を見据える。
その男らしい顔つきに心臓が大きく脈を訴えた。
「もし俺が次にちゃんとお前へ想いを伝えられたら……その時は逃げないって約束してほしい。絶対代わりだなんて思わせないから」
逃げる?俺が?
そんな事するわけないのに。そんな事ありえないのに。
分かってないな、本当。
「逃げるわけないし。俺は四年間、ずっと両手広げて待ってるんだから」
読んで字の如く両手を広げて見せてやる。
「言ったぞ、約束だ」
「……うん、約束」
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