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変化_12
飄々とした宮尾は離れるところか更に腕の力を強めて体を密着させ、更には俺の項に鼻先を当てる。
「――ふぁっ、な、何すんだよ!」
「んー……ん?浅井くんもしかして発情期近い?微かに香ってるよ」
フェロモンが、と耳元で囁く声はわざとらしく吐息が混じっていた。
「っさいな、関係ないだろ!」
「えー?そんな冷たいこと言わないでさ、いい加減僕と番になろうよ?今ならええーっと………うん、四番目の恋人になれるよ?」
宮尾の“難” と言うのはこれだ。
来るもの拒まずな性格で、同時に複数人と付き合うなんてのは日常茶飯事。
「絶対嫌だね。俺は篠原一筋なの!」
「諦め悪いなぁ、浅井くんも。四年も応えてもらえないんだから止めちゃえばいいのに。僕と番えば発情期で苦しむ事もなくなるよ?」
「………放っておけよ」
「あ、怒っちゃった?ごめんねー?でもそんな所も可愛いよ!」
全然悪びれてないし、項擽ったいんだよマジで。
「こんなに一途に思われてるのに君も酷い男だね、篠は、ら………」
殴ってやろうかと拳を握り締めた瞬間、俺を拘束していた腕がパッと離れて、背中にあった体温も同時になくなる。
何だと振り返れば、両手を上げたまま宮尾は俺から距離を取っていた。
「僕は平和主義なので」
「は?」
ニコッと笑った宮尾は満足したから帰ると講義室を後にして行く。
「何なんだよ……騒がしい奴だな」
突然現れては突然消える。昔から宮尾という男はそう言う奴だったけど、今日はいつにも増して動きが早かったな。
宮尾が出ていったドアを意味もなく見ていたら、頭に大きな手が乗せられた。
隣の篠原から伸ばされた手だ。
「………な、何?」
「ん?講義始まるぞ」
いつの間にか講師が講義台で準備を始めてる。
「あ、りがと……」
「ん」
退けられた手の先で篠原は笑ったのだけど、それはいつもと違う笑い方だった。
変な笑い方………初めて見た………。
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