82 / 139

変化_23

男も電話の相手が俺だと気付いたらしく、恐らく浅井のスマホに出ていたであろう名前を口にする。 派手な金髪とピアスが目立つ男だ。 若いけど俺よりはいくらか上だろう。 そんな事はどうでもいい。それより浅井の無事を確認するのが先だ。 「浅井は何処だ?」 「おっと、ここから先は行かせられねーな」 中に入ろうとする俺の前に男は立ちはだかる。 「ふざけ――」 「――お前、何か勘違いしてないか?」 「勘違い………?」 「俺は宗一に呼ばれたんだ。ゲスな連中の所から連れて帰ってきたのは俺」 浅井の下の名前を知ってる……親しい間柄なのか……? 浅井の交友関係があまり広くない事を知っている。 少なくとも俺の記憶にこの男の顔はない。 「って事だから安心して帰っていいぜ、篠原くん」 「ちょ、待っ――!」 閉め掛かったドアに手を掛けた瞬間、部屋の中から漂う甘い香りに気が付いた。 咄嗟に鼻を押さえたが、それでも香りは消えない。 「な?分かったろ?宗一、発情期入ってんだよ。だからお前みたいなαを中に入れるわけにはいかねーの」 「……っ………お前だって、αだろ?」 見た目だけでバース性が決まるわけではないが、ある程度は分かる。特に同じバース性同士なら。コイツは多分α……。 「まあな。けど俺はちゃんと宗一に側にいる事を許されてる。宗一が頼ったのはお前じゃなくて俺。その意味、分かるだろ?別に番ってわけでもねぇんだから、お前が今ここに入る権利なんてないんだっつーの」 「…っ……それは――」 「――“会いたくない”ってよ。宗一本人が言ったんだ。これで満足だろ?さっさと帰んな」 突き飛ばされた拍子に手がドアから離れ、一瞬にして閉ざされる。施錠の音が嫌に響いた。 「なっ……くそ……っ!浅井!俺だ!頼む、開けてくれ!」 拳をドアに叩きつける最中、俺のスマホが音を鳴らした。 着信……。 鳴り続けるスマホを確認すれば画面には“浅井”の文字。 間を空けずすぐにそれを耳に当てる。 「浅井!無事か?今家の前に――」 『……ごめ……』 浅井だ。 浅井の声だ。 「……浅井………?」 『今、会いたくない……帰って……』 「待っ、あさ――」 一方的な言葉と切られた電話。 すぐに掛け直してもまた電源が切られたのかコールも鳴らなかった。 「少しでいい、少しでいいから……顔、見せてくれよ……」 それからどれだけ叫んでも、待ってもドアが開くことはなかった。 次の日も、その次の日も浅井の家に通い、コールの鳴らない連絡を続けた。 だけど一週間経っても、浅井と会うことも声を聞くことも俺は出来なかった。

ともだちにシェアしよう!