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変化_23
男も電話の相手が俺だと気付いたらしく、恐らく浅井のスマホに出ていたであろう名前を口にする。
派手な金髪とピアスが目立つ男だ。
若いけど俺よりはいくらか上だろう。
そんな事はどうでもいい。それより浅井の無事を確認するのが先だ。
「浅井は何処だ?」
「おっと、ここから先は行かせられねーな」
中に入ろうとする俺の前に男は立ちはだかる。
「ふざけ――」
「――お前、何か勘違いしてないか?」
「勘違い………?」
「俺は宗一に呼ばれたんだ。ゲスな連中の所から連れて帰ってきたのは俺」
浅井の下の名前を知ってる……親しい間柄なのか……?
浅井の交友関係があまり広くない事を知っている。
少なくとも俺の記憶にこの男の顔はない。
「って事だから安心して帰っていいぜ、篠原くん」
「ちょ、待っ――!」
閉め掛かったドアに手を掛けた瞬間、部屋の中から漂う甘い香りに気が付いた。
咄嗟に鼻を押さえたが、それでも香りは消えない。
「な?分かったろ?宗一、発情期入ってんだよ。だからお前みたいなαを中に入れるわけにはいかねーの」
「……っ………お前だって、αだろ?」
見た目だけでバース性が決まるわけではないが、ある程度は分かる。特に同じバース性同士なら。コイツは多分α……。
「まあな。けど俺はちゃんと宗一に側にいる事を許されてる。宗一が頼ったのはお前じゃなくて俺。その意味、分かるだろ?別に番ってわけでもねぇんだから、お前が今ここに入る権利なんてないんだっつーの」
「…っ……それは――」
「――“会いたくない”ってよ。宗一本人が言ったんだ。これで満足だろ?さっさと帰んな」
突き飛ばされた拍子に手がドアから離れ、一瞬にして閉ざされる。施錠の音が嫌に響いた。
「なっ……くそ……っ!浅井!俺だ!頼む、開けてくれ!」
拳をドアに叩きつける最中、俺のスマホが音を鳴らした。
着信……。
鳴り続けるスマホを確認すれば画面には“浅井”の文字。
間を空けずすぐにそれを耳に当てる。
「浅井!無事か?今家の前に――」
『……ごめ……』
浅井だ。
浅井の声だ。
「……浅井………?」
『今、会いたくない……帰って……』
「待っ、あさ――」
一方的な言葉と切られた電話。
すぐに掛け直してもまた電源が切られたのかコールも鳴らなかった。
「少しでいい、少しでいいから……顔、見せてくれよ……」
それからどれだけ叫んでも、待ってもドアが開くことはなかった。
次の日も、その次の日も浅井の家に通い、コールの鳴らない連絡を続けた。
だけど一週間経っても、浅井と会うことも声を聞くことも俺は出来なかった。
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