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変化_27
言葉の通り俺達の横で水野は止めるべきか否かと慌てふためいている。
「…………つまらない。前の方が面白みがあった」
心底つまらなそうに字見は言う。
顎を掴んでいた手が離れると字見は興味が失せたように、スタスタと構内へと向かって行った。
「……講義始まるし、お前も行けば?」
「で、でも……」
「俺も遅刻するしもう行く」
「お、終わったらそっちに行くから!そしたらちゃんとお話させて!絶対行くから!待っててね!」
まるで捨て台詞のように声を張り上げて水野は字見の背中を追って行った。
……ちゃんと手当てされてた。篠原かな、きっと。良かった…。
二人の背中を見送って、俺は反対の棟へ足を向ける。
講義開始ギリギリで入ると広い講義室の椅子は殆どが埋まっていた。
部屋の中央より少し前方、いつも座る席には篠原の背中がある。その左隣の空席はいつも俺が腰掛けている場所。
………空いてる。
そう思ったのも束の間、一人の女学生がそこに座ろうとしたのか篠原に声を掛けた。
二、三言会話を交わして、篠原が謝る仕草をすると女学生は立ち去り、別の場所へと腰掛けた。
………もしかして、空けてくれてる……のかな……。
そんな淡い期待を感じると、また目頭が熱くなった。
やっぱり会いたくない……。
結局篠原の死角になる一番後ろの端の席を選んだ。
講義が始まっても内容が何一つ頭に入らない。
気付けば篠原の背中を見てしまう。
来なきゃ良かったなとうつ伏せて、そう言えばこの講義は二講連続の講義だったと思い出し、更に気持ちは深く沈んだ。
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