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隣_3

俺の呼び声に確かに反応を見せた背中は、振り返る事はなく突然走り始めた。 あと少しで手が届きそうだった距離はあっという間に引き離されていく。 「…っ……浅井、待ってくれ!」 聞こえているはずなのに浅井の足が止まることはない。 くそ……やっぱ足が速ぇな……どんどん引き離されてく……。 人気のない方へ走っていくから俺も走りやすくなった分、浅井のスピードも上がる。 追いつけない……どうする……今ここで逃げられたら、もう……。 だめだ、逃さない、逃したくない。 「浅井!頼むから話をさせてくれ!」 「……〜〜い、嫌だ!」 やっと返ってきた反応。久し振りに聞いた浅井の声は震えていた。 流石に疲れたのか浅井のスピードは徐々に落ちてくる。 少し距離が縮んだと思った刹那、浅井は空き部屋へと逃げ込み勢いよくドアを閉じた。 それを追ってドアノブに手を掛けても、それは開かない。 ドアノブが回るから鍵が掛けられたわけじゃない。何かに支えて開かない感触から、恐らく浅井が内側からドアを押さえているんだろう。 「………浅井、ここ開けてくれ」 「………やだ」 ドアの内側、下の方から声がする。 座り込んでるのかと俺も膝を着いて、掌をドアに添えた。 「頼む。顔が見たい」 「………やだったら」 「…………分かった。じゃあこのまま聞いて。怪我とかないか?体調は?」 「…へーき!へーき!発情期で来れなかっただけで、怪我とか全然してないから」 「そっか。…………浅井、ごめんな」 「……何が?何で篠原が謝んの?ああ、もしかしてこの前俺が家飛び出した事?別にもう気にしてないから大丈夫。けどさ、他の奴にはやんない方がいいよ。あれ悪くいけばセクハラだからな」 努めて明るく振る舞おうとする声音が、ズキズキと胸に刺さる。 「しない。浅井だからしたんだ。お前以外にするわけない」 「…………………」 「てか、それじゃなくて……いやそれもか。そもそもあんな事しなけりゃ浅井が飛び出して行って巻き込まれる事も………」 「………じゃあ何?何に謝ってんの?」 変なの、と笑いながら息を詰める音がした。 瞼を閉じれば浅井の泣き顔が思い浮かんでくる。 「――浅井のこと見つけられなくて、不甲斐なくてごめん」

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